「男はつらいよ ぼくの伯父さん」を訪ねて

「男はつらいよ ぼくの伯父さん」のイラスト(吉岡秀隆)

人である寅さんが主役の「男はつらいよ」シリーズは、全48作いずれもどこかに色濃く旅情を漂わせた作品ばかりでありながら、いわゆるロードムービーと呼べるものはほとんどありません。基本的なドラマのかたちとして寅さんの故郷である柴又、そして寅さんが訪れる旅先という"点"で起きる出来事に眼目が置かれているからですが、それでも中には"点"と"点"を結ぶ"線"のドラマを描いたロードムービー、あるいはその味わいを持ったものがいくつかあります。1989年公開の第42作「男はつらいよ ぼくの伯父さん」もまた、そんな作品のひとつ。寅さんの甥っ子である満男が転校した高校の後輩の女の子を訪ねて東京から佐賀まで遙々バイクで旅する情景と、旅を通じた成長が描かれています。

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「病院坂の首縊りの家」を訪ねて

「病院坂の首縊りの家」のイラスト(桜田淳子)

1979年公開の「病院坂の首縊りの家」は、市川崑監督と石坂浩二がタッグを組んだ金田一耕助シリーズの第五作目にあたる作品です。副題として"金田一耕助最後の事件簿"と銘打たれた同名の原作は、メディアミックスの先駆けともいうべき映画シリーズの大ヒットによる横溝正史ブームのもとで上梓された、金田一耕助モノの久々の新作でした。

文庫本上下巻で700ページを超えるこの原作は、金田一モノのお約束ともいうべき登場人物たちのもつれた血縁関係がもうこんがらがった釣り糸のように複雑で、いくら家系図と首っ引きで読み進めても、その関係性がさっぱり頭に入ってきません。とはいえファンにとってはそのわけのわからなさがお馴染みの味わいとして好ましくないわけでもなかったりするのですが(どっちなんだ)――読み終わってみれば、実はストーリーの上でその設定がそこまで複雑でなければならない必要性がまったくなかった、というのが本作のつらいところであり、またそれ以上にメイントリックがある有名な自作のトリックの二番煎じだった――というのがさすがの大横溝も衰えたりと思わずにはいられなくなる、悲しくも痛ましいところだったりします。

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「姿三四郎」を訪ねて

「姿三四郎」のイラスト(藤田進と月形龍之介)

て、ブログがすっかりロケ地めぐりの「蔵出しシリーズ」と化していますが、今から3年前の秋から冬にかけて、黒澤明の監督デビュー作「姿三四郎」(1943)のロケ地をめぐり歩いてきましたので、その時のことを書こうと思います。

明治時代の柔道草創期、「柔の道」に人生をかける青年、姿三四郎の活躍を描いた「姿三四郎」は、なんといってもそのロケ撮影に目を瞠らされる作品です。スケール感のあるロケーションや大掛かりなオープンセットといえば、のちの黒澤映画に共通する特長といっていいものですが、それもみな、この処女作が嚆矢。いやそれどころか、姿三四郎と宿命のライバル、檜垣源之助の決闘を描いた箱根の仙石原で撮影されたクライマックスの映像は、全三十作を数える黒澤作品の中でも至高といっていい、まるで天地自然すらも味方につけたかのような、神がかったところがあります。

このあたりのことは以前、「姿三四郎」の記事に書いたので繰り返しませんが、畳の上での柔道場面がいずれもいまひとつリアリティに欠ける「姿三四郎」にあって、その格闘映画としての魅力のほとんどはこのロケ撮影に負っている、といっても差し支えないんじゃないでしょうか。

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「裏切りのサーカス」を訪ねて

「裏切りのサーカス」のイラスト(ベネディクト・カンバーバッチ)

ンドン出張のついでに「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」(2015)のロケ地めぐりをしよう(前回の記事)、と思いついたそのすぐあと、実はもう1本、頭に浮かんだ映画がありました。それが、トーマス・アルフレッドソン監督、ジョン・ル・カレ原作のスパイ・スリラー、「裏切りのサーカス」(2011)。なぜこんな邦題を付けたのか、日本公開から8年経ったいまでも違和感ありまくり(原題は原作名と同じ、「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」)のこの作品もまた、その舞台のほとんどがロンドンです...って、おお、いま思えばどちらもスパイ映画ではないですか。そしてそういえば、「007 スカイフォール」(2012)や「007 スペクター」(2015)もまた、ロンドンがロケ地ではありませんか。

そう、MI6のお膝元であるロンドンは、世界で最もエスピオナージュが似合う街なのですね(たぶん)。というわけで今回は、前回記事の姉妹編。「『裏切りのサーカス』を訪ねて」であります。

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「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」を訪ねて

「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」のイラスト(トム・クルーズ)

ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション」(2015)は、これまで6作作られている「ミッション:インポッシブル」シリーズの最高傑作です(私決め)。回を重ねるごとにエスカレートする、バカバカしいほどすごいアクション。このシリーズのお楽しみ、世界各地を股にかけたダイナミックでスケール感のあるロケ撮影。お馴染みのメンツに加え、魅力ある新キャラの登場。そしていつも通りのわかりやすくテンポよいドラマ展開と、これまたこのシリーズのお馴染み、観客に向けて仕掛けられただましのテクニック――とまあ、すべてが二重丸の出来栄えで、何度観ても面白く、観るたび気分が盛り上がる映画です。

本作のロケ地は、クアラルンプール、ハバナ、ウィーン、カサブランカ、そしてロンドン。中でもロンドンはクライマックスの舞台ともなっていて、この映画を観ると、ロンドンの風景と風物がひときわ強く印象に残ります。というわけで、一昨年の秋に出張で5日間ほどロンドンに行くことになったとき、オフ時間のお楽しみとして真っ先に思いついたのが、この映画のロケ地めぐり。ロンドンを訪れるのは四半世紀ぶりだったにもかかわらず、何はさておいても映画のロケ地めぐり。我ながら病膏肓にいたるとは、まさにこのことであります。

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管理人: mardigras
ウミバト
 

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椿三十郎
七人の侍
用心棒
ツィゴイネルワイゼン
遙かなる山の呼び声
復讐するは我にあり
砂の女
男はつらいよ 寅次郎恋歌
男はつらいよ 寅次郎忘れな草
男はつらいよ 寅次郎相合い傘
男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花
武蔵野夫人
仁義なき戦い
麻雀放浪記
幸福の黄色いハンカチ
悪魔の手毬唄
夜叉
丹下左膳餘話 百萬兩の壺
姿三四郎
劔岳 点の記
影武者
洋画の紹介
第三の男
ブレードランナー
ゴッドファーザーPARTII
羊たちの沈黙
ミッドナイト・ラン
スカーフェイス
ビッグ・ウェンズデー
ゴッドファーザー
駅馬車
荒野の決闘
ダンス・ウィズ・ウルブズ
燃えよドラゴン
スパルタンX
ターミネーター2
パルプ・フィクション
アパートの鍵貸します
引き裂かれたカーテン
めまい
夜の大捜査線
地獄の黙示録 特別完全版
サンセット大通り
モーターサイクル・ダイアリーズ
8 1/2
真夜中のカーボーイ
スティング
プラトーン
ダイ・ハード
赤ちゃんに乾杯!
太陽がいっぱい
マルホランド・ドライブ
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リバー・ランズ・スルー・イット
ルートヴィヒ
M★A★S★H マッシュ
バック・トゥ・ザ・フューチャー
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エンゼル・ハート
バグダッド・カフェ 完全版
未来世紀ブラジル
明日に向って撃て!
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レスラー

キル・ビルVol.2
2001年宇宙の旅
ブリキの太鼓
ジュラシック・パーク
十二人の怒れる男
ゲッタウェイ
ミシシッピー・バーニング
ベルリン・天使の詩
裏切りのサーカス
ブラック・レイン
アマデウス
遠い空の向こうに
カプリコン・1
ロケ地めぐり
悪魔の手毬唄
病院坂の首縊りの家
ツィゴイネルワイゼン
ツィゴイネルワイゼン(その2)
夜叉
遥かなる山の呼び声
幸福の黄色いハンカチ
男はつらいよ 寅次郎相合い傘
男はつらいよ ぼくの伯父さん
劔岳 点の記
岳 -ガク-
ゼロの焦点
砂の女
武蔵野夫人
姿三四郎
ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション
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