ミッドナイト・ラン

生まれ変わったらまた会おう
「ミッドナイト・ラン」のイラスト(ロバート・デ・ニーロ)

ーチン・ブレスト監督、ロバート・デ・ニーロ主演のアクション・コメディ、「ミッドナイト・ラン」(1988)。これはホント、楽しい映画です。ユーモアとペーソスの絶妙な按配に、何度観ても気持ちよく笑わされて、ほろっとさせられて、そして観終われば心がスカッとする、私にとって最高の疲労回復ムービー。

「ミッドナイト・ラン」を初めて観たのは、大学生のとき。真夏の昼下がり、アパートのベッドに寝っ転がって、一人で観た覚えがあります。当時、ロバート・デ・ニーロが出てさえいれば、片っ端から映画館に足を運んでいたのですが、よりによってこの作品だけ、うっかり見過ごしてしまいました(泣)。


"ロード・ムービー"というジャンル

(移動)の過程で起こる、さまざまな出来事を描くことに眼目を置いた、いわゆる"ロード・ムービー"と呼ばれるジャンルの作品は、そのテーマや内容いかんに関わらず、ただ"ロード・ムービー"であるというだけで、わくわくしてしまうところがあります。

目的地を目指して旅すること、あるいは見知らぬ土地を当てもなしに彷徨ったりすること、イコール、未知なる人との出会いや、予期せぬ冒険といった非日常的なイベントが、ある程度、約束されているともいえるわけで、しかもたいていは、その旅の進み具合に、主人公の成長、あるいは旅を共にする者同士の相互理解、友情の深まりといった、昂揚感を喚起する内的ドラマの進展がわかりやすくリンクしていたりもして、要するに"ロード・ムービー"は、お話を盛り上げる要素とカタルシスのタネが予め内包された、実に都合のよいフォーマットなのですね。

ロード・ムービーのメカニズム

日常の閉塞感に、ちょっとした風穴を開けてくれるこの手の映画が好きで、昔からそれっぽさを嗅ぎ取ると、それこそ見境なしに手を伸ばしています。実際、"ロード・ムービー"と呼んでいい作品は山ほどあって、レンタル・ビデオ屋に行くといつも、いっそ"ロード・ムービー"でカテゴライズして並べてくれないものか、なんてことを思いますが、残念ながらそんなジャンル分け、これまで一度もお目にかかったことがありません。

思いつくままに挙げてみましょう。本作「ミッドナイト・ラン」は"アクション"。「地獄の黙示録」(1979)は"戦争"。「ジム・キャリーはMr.ダマー」(1995)は"コメディ"で、「駅馬車」(1939)は"西部劇"。「ロード・オブ・ザ・リング」(2001)は"ファンタジー"だし、「ストレイト・ストーリー」(1999)は"ヒューマン"、「アリスの恋」(1974)は"恋愛"で、「北北西に進路を取れ」(1959)は"サスペンス"――とまあ、いずれもロード・ムービーの要素を持ちながら、それぞれ異なるジャンルの棚に仕分けされているわけですが、もし、これらがひとところにまとめて並べられていたりしたら、なんてことを想像すると、"ロード・ムービー"好きとしては、もうそれだけでワクワクしてしまいます。

実際に旅するなら、あてのないぶらり旅もいいものですが、映画の場合、主人公の旅に何か明確な目的のあった方が、その目的を遂げることができるかどうかのスリルが加味されて、また主人公の抱く希望や使命、あるいは野心といったものに感情移入できたりもして、(あくまで"ロード・ムービー"としての)お楽しみに、よりコクが生まれるような気がします。加えて、その目的に時間的制約があったり、はたまた主人公の行動を邪魔するハザードがあったりすると、スリルが増してなお楽しい。

そんなシチュエーションの"ロード・ムービー"ば、たとえば「ロード・オブ・ザ・リング」、「ゲット・オン・ザ・バス」(1996)、「恐怖の報酬」(1953)、「リトル・ミス・サンシャイン」(2006)、「バニシング・ポイント」(1971)、「ジャッカルの日」(1973)、「大災難P.T.A.」(1987)、「プライベート・ライアン」(1998)、「八十日間世界一周」(1956)――とまあ、その趣きや味わいは異なれど、傑作、佳作、枚挙にいとまがありません。そして、そんな数ある中での私のベスト・オブ・ザ・ベストがこれ、「ミッドナイト・ラン」。



「ミッドナイト・ラン」のあらすじ(以下ネタバレ)

ラマの主人公は、ロバート・デ・ニーロ演じるバウンティ・ハンターのジャック・ウォルシュ。バウンティ・ハンターとは、保釈逃亡犯の逮捕をなりわいとする賞金稼ぎのこと。かつてシカゴの警官だったジャックは、麻薬王セラノ(デニス・ファリーナ)の賄賂を拒否したことから仲間内で孤立し、罠に嵌まって警察を辞める羽目になった挙句、妻子とも別れ、いまはロサンゼルスでただひとり、いずれ小さなコーヒー・ショップを開くことを夢見ながら、賞金稼ぎを続けています。

そんなジャックは、ある日、保釈金融会社のエディ(ジョー・パントリアーノ)から、ジョナサン・マデューカス(チャールズ・グローディン)という男の捜索を依頼されます。ジョナサンは、クライアントであるセラノの金を義憤に駆られて横領し、慈善事業に寄付してしまったことから逮捕された会計士。ジョナサンは、エディの用立てた大金で保釈されたあと、麻薬王の暗殺を恐れ、どこかに雲隠れしてしまっていました。

四日後の公判までにジョナサンを探し出し、ロサンゼルスの法廷に出廷させなければ、保釈金は没収、エディは破産、というわけで、ジャックは引退してコーヒー・ショップを開くための元手に十分な、10万ドルという破格の報酬を条件に、仕事を請け負います。ジョナサンを見つけ出し、身柄を確保することさえできれば、それが全米中のどこであろうとも、ロスまで飛行機でほんのひとっ飛び。たった一晩で終わる簡単な仕事、というわけで、タイトルが"ミッドナイト・ラン"(夜中に近所の店へひとっ走り買い物に行ってくる、という意味のスラングでもあります)。

早速仕事に取り掛かったジャックは、早くも翌日の夜、ニューヨークの隠れ家に潜んでいたジョナサンを見つけ出して捕まえ、飛行機でロスへ連れ帰ろうとします(ニューヨークからロスまでのフライトは、ほんの5時間)。ところが、飛行恐怖症だというジョナサンが機内で喚き出し、離陸直前、二人は飛行機から降ろされてしまいます。

ジャックは仕方なく、長距離列車(AMTRAK)を使うことにします(乗車時間はほとんど丸3日)。しかし、エディがバック・アップとして雇ったもうひとりの賞金稼ぎ、マーヴィン(ジョン・アシュトン)がピッツバーグから列車に乗り込んできて、ジョナサンを渡せ渡さないの一騒動。

なんとかマーヴィンを振り切ったジャックは、オハイオの片田舎で列車を降り、ジョナサンを連れて長距離バスに乗り換えます。ところがマーヴィンの悪知恵で、クレジット・カードが利用停止に。しかも一難去ってまた一難、公判でジョナサンに証言されては困る麻薬王が殺し屋を差し向け、さらには麻薬王の逮捕を目論むFBIもジョナサンの身柄確保に乗り出してきて、いよいよ絶体絶命。

西海岸はまだ遥か先、果たしてジャックは追っ手を振り切り、しかも隙あらば逃げ出そうとするジョナサンの首根っこを押さえながら、タイム・リミットの金曜深夜までに、ロスに辿り着けるのか――。



ジャックとジョナサンの移動経路と移動手段(地図付き)

まあ、あらすじはざっとこんな感じ。逃亡系ロード・ムービーの典型といっていい、いかにもありがちな図式ですが、道中、二人の減らず口の叩きあい、そして、次々と乗り物を乗り換えながらの三つ巴、四つ巴の追いつ追われつのジョナサン争奪合戦が楽しい。

二人の移動手段は、長距離列車、長距離バス、クルマ、と飛行機を除く北米大陸横断のメジャーな"足"を巧みに織り交ぜて(最後に飛行機も使う)、ロード・ムービー好きをニヤリとさせます。ほかにもタクシー、徒歩、ヒッチハイク、果てはパトカーの乗り逃げに貨物列車のタダ乗り、車輌強盗に車輌窃盗、とあらゆる手段のオンパレードで、これ言うまでもなく、意図的にそうしたのでしょう。

思いもかけぬトラブルで、移動手段の変更を余儀なくさせられるところが、この手の映画の大きな見せ場といえますが、「ミッドナイト・ラン」は、そのタイミングとビークルのチョイスが抜群です。たとえば前述の通り、旅の出だしで飛行機の利用をうまい具合に回避しているのですが、それがあとあとのギャグの伏線にもなっていたりして、要するに、脚本がよくできているのですね。

ここで、二人の三日間にわたる道中を、わかる範囲でマッピングしてみると――。

「ミッドナイト・ラン」のロードマップ


どうです、この、バラエティ豊かな移動手段。こうしてみると、ジャックは水曜の早暁から木曜の夜まで、途中、シカゴでの銃撃戦、16、7時間のロング・ドライブ、アマリロでのカー・チェイスといったタフなイベントを挟みながら、なんとまるまる40時間近くも寝てないことがわかるのです(笑)。

長距離移動の後景となる、清々しい晩秋の空気の匂いが漂ってくるような、全米各地の微妙に異なる"十所十色"の秋景色もまた、この映画の見どころの一つ。旅気分を味わわせてくれる、そんな町から町へのオール・ロケーションの映像も、ロード・ムービーの醍醐味といっていいでしょう(ちなみにマーティン・ブレストの次作、「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」(1992)に漂う季節感も、素晴らしい。いずれも撮影はドナルド・ソーリン)。



シンプルな構成と巧みな脚本

記の通り、「ミッドナイト・ラン」の面白さの源泉は、なんといってもメリハリ付けまくり、伏線張りまくり、セリフ冴えまくり、そして小道具活かしまくりの、技巧的にもほどがある脚本にあります。ドラマのおおよその骨格は、

(1)ジャックとジョナサンが、ある町へ辿り着くたびにピンチに見舞われる(アクション)
(2)そしてピンチをしのぎ、次の町への移動中に二人の間で会話が交わされる(ダイアローグ)

の繰り返しに過ぎませんが、絶妙のタイミングで展開する、(1)=動と(2)=静のリズムが心地よく、また"タイム・リミット"と"チェイス"が生みだすスリル&サスペンスと相まって(アクションそれ自体に度肝を抜かれるようなインパクトはないにせよ)、オープニングからエンディングまで、飽きるところがまったくありません。

「ミッドナイト・ラン」のイラスト(ヤフェット・コットー)

いくら移動手段を変更しようとも、二人は行く先々の町で、必ず追っ手の待ち伏せを喰らってしまいます。その、先回りされてしまう理由が、どれもこれもよく練られていて面白いのですが、クライマックスのマッカラン(ラスベガスの空港)まで、追手であるマーヴィン、マフィア、FBIの三者が同時に登場することがなく、どこの町でも待ち伏せするのはいずれか二者だけ、という出入りの工夫が抜群です。

(1)シカゴではマフィアとFBI(両者が銃撃戦を繰り広げる隙にジャックたちは逃走)
(2)アマリロではマフィアとマーヴィン(マーヴィンと呉越同舟でマフィアやっつけたあと、ジャックがマーヴィンを騙して逃走)
(3)セドナではFBIとマーヴィン(FBIのあとを尾けたマーヴィンが、油断したジャックからついにジョナサンを奪取)

とまあ、三者が入り乱れるカオスを避ける一方で、現われた二者を巧みに絡ませることによって、ジャックたちが絶体絶命の窮地を脱する展開を、スマートに作り出しています。

またこの映画、脚本の優れた映画の例に漏れず、小道具の使い方が素晴らしい。サングラス、タバコ、マッチ、腕時計、といろいろある中で、ジャックがFBIの捜査官から掏り取ったバッジを使ったギャグが最高で、バッジを片手に路上でいきなり振り返り、カメラ目線でポーズをキメてみたり、フライト中、子供の見ている前で堂々と写真を貼り替えてみたり、そして行く先々で徹底的に使い倒してみたり、と何度観ても笑えます。


「生まれ変わったらまた会おう」

地をすり抜けるたび、次の町へと移動しながら、ジャックとジョナサンの間で会話が交わされます。というより、逃げ出すきっかけを少しでも作り出そうとして、ジョナサンが、嫌がるジャックを無理矢理、会話に引っ張り込もうとします。たとえば、ジャックの関心を引こうとするジョナサンと、そのおしゃべりに辟易しきったジャックのやりとり。

ジョナサン 「(声をひそめて)セラノがいちばん怖いことって何だか知ってるか?」
ジャック 「おまえと一緒に大陸横断しなきゃならなくなること(ひとり大爆笑)

あの手この手で話の糸口を見つけようとする、ジョナサンのしぶとさが笑えるわけですが、旅が進むにつれ、人間不信だったジャックの頑なな心が次第に解きほぐれ、そしていつしか生死を共にする"バディ"として二人の絆が深まっていくという展開は、この映画の"ロード・ムービー"らしさの核心でもあります。

ニューヨークでは、追う者と逃げる者でしかなかったはずの関係が、旅を通じて互いの人間性を理解しあい、アリゾナあたりに辿り着いたころには、「生まれ変わったらまた会おう」と口にするほどの友情が芽生えている――いかにもお約束の展開ではありますが、二人の心の移り変わりが、グラデーションのように滑らかに、さらりとカラッと描かれていて、そのさりげなさが、グッとくるのですね。


"コメディアン"、ロバート・デ・ニーロ

みなシナリオに加え、この映画の面白さのもうひとつの源泉は、そのキャスティングにあります。腕っ節は弱いくせに、やたらと不敵な笑みを浮かべてみせる、典型的ないじめられっ子のようなジョナサンを演じる、チャールズ・グローディンのとぼけた味わい。そしてなんといっても、ジャックを演じるロバート・デ・ニーロの演技。

「未来世紀ブラジル」(1985)でも、センス・オブ・ユーモアの片鱗をちらりと披露してはいましたが、本作ではもう、アクセル全開のコメディアンっぷり。初めて観たときは、えっ、あのヴィトー(「ゴッドファーザーPARTII」(1974))が?あのトラヴィス(「タクシードライバー」(1976))が?と、そのコワモテ、狂気のイメージとのあまりのギャップに驚いてしまったものです。しかし超一流は、何をやっても超一流。大したネタであろうとなかろうと、デ・ニーロが口にしたりやったりすると、なぜかいちいち可笑しい。絶妙な表情としぐさ、そして間。特に、自分の減らず口に自分でウケるときの破顔一笑は、思い出すだに笑えます。

「ミッドナイト・ラン」の次の出演作、「俺たちは天使じゃない」(1989)もコメディで、こちらでコンビを組むのはショーン・ペン。デ・ニーロが、本作とまったく同質の演技をみせていて、この映画にも、ずいぶん笑わせてもらいました。



"人情喜劇"「ミッドナイト・ラン」

の映画、笑いの一方で、ペーソス溢れるエピソードの味わいが、ほとんど"人情喜劇"といいたくなるほどに素晴らしい。たとえば道中、シカゴでのジャックと一人娘との九年ぶりの再会。あるいはラスト、ロサンゼルス空港でのジャックとジョナサンの今生の別れ。いずれの場面もあざといほどの浪花節ですが、しかしウェルメイドなハリウッド映画のフォーマットでこれをやられると、もう恐ろしいくらいに効果的。その切なさ哀しさに、何度観ても胸がじんとします。

ちなみに、この映画で私がもっとも好きな場面は、終盤、ロスまで残すところあとわずかとなった、真っ赤な大地の広がるアリゾナのレッド・ロック・カントリーで、ジャックがとうとうマーヴィンに出し抜かれ、ジョナサンを掻っ攫われてしまった直後の情景。

陽がまだ中天にある午後、埃まみれのジャックが疲れた足を引きずって、街道沿いの小さなカフェに辿り着きます。ほかに誰も客のいない、気だるい空気の流れる店のカウンターに腰をおろし、コーヒーを注文する彼に、店のオーナーが声を掛けます。

「ひどい一日だったようで」
「いや、ひどい一週間だ」
「わかりますよ」


タバコに火を点けようとしてなかなか点かず、ジャックは溜息をつきます。不眠不休の死に物狂いの努力も水の泡、やくざな暮らしに見切りをつけてコーヒー・ショップを持つ夢も潰え、どことも知れないど田舎のカフェにひとりきり、クルマもなし、手持ちの金もなし。旅の途中で再会した元妻と一人娘に未練を残しつつ、しかしもう二度と彼女たちと逢うことがないであろうことを、ジャックは頭の隅でわかっています。そんな、孤独で未来のあても失くしてしまった、しかしそれでもなんとか生きていかなくてはならない四十男の切なさ、哀しさ、そしてしぶとさを、デ・ニーロは、溜息ひとつに凝縮してみせます。

と、その瞬間、カウンターの上を因縁のサングラスが滑ってきて(どんな因縁かは各自調査)、誰かと思えばFBIの捜査官、モーズリ(ヤフェット・コットー)。とうとうFBIに捕捉され、ジャックにとっては弱り目にたたり目のはずが、しかし旧知の捜査官の顔を見て、まるで黄昏気分が雲散霧消したかのように、にっこり笑み崩れて減らず口を叩きます。

この絶妙の呼吸、なんだか観ているこっちまで、救われた気分になってしまうのですね。



余談あれこれ

ャックはヘビー・スモーカーで、長距離列車の中でも長距離バスの中でも空港でも、ところかまわず、がんがん煙草に火を点けています。ジャックに限らず、マーヴィンもモーズリもすぱすぱ煙草を吸っていて、今の映画じゃ、ちょっとありえないほどのマジョリティっぷりです。

そんな中、インテリのジョナサンただ一人が、煙草の害悪をジャックに延々語り続けるのですが(そしてジャックは無視)、思えばこの映画の公開された時期は、ちょうど、アメリカで煙草批判が喧しくなり始めていた頃でした。そして間もなく、それこそあっという間に、公共の場から煙草を吸える場所が消えていき、それでも1990年代の初めの頃はまだ、どこの空港でもターミナル内にスモーキング・エリアが確保されていたものですが、それが今ではターミナルの外でさえ、灰皿が見つからないほど。

LAX(ロサンゼルス空港)に到着したジャックが、エスカレータに乗りながら、思い切り煙草を吹かしていましたが(そういえば、「ダイ・ハード」(1988)でも、ブルース・ウィリスはLAXに到着した瞬間に、煙草に火を点けていた)、一昨年、LAXでライターを買おうとしたら、空港内じゃ今や煙草もライターもどこにも売っていないと言われてしまいました。

*       *       *

旅の途中、手持ちの金がなくなり、すっからかんになったジャックとジョナサン。アマリロに到着すると、腹ペコにもかかわらず、ジャックがなけなしの小銭でタバコを買ってしまいます(そして、彼らはその日の夕方まで、何も食べることができない)。怒ったジョナサンが、恨みがましくブツブツと文句を言い続けるのですが(こちらの記事参照)――いや、これわかります、食事より煙草。スモーカーなら誰でも一度や二度、似たような経験があるんじゃないでしょうか。

*       *       *

その昔、イリノイ州の片田舎に住んでいた頃、シカゴ-ニューヨーク間を、映画と同じ路線のAMTRAKで旅行したことがあります。片道延々19時間、映画のような個室ではなく普通席で、食堂車を利用することもありませんでした。往きも帰りもあまり眠ることが出来ず、ひたすら本を読んでいました。

この列車の中で、「刑事ジョン・ブック 目撃者」(1985)に登場したアーミッシュの人たちを見かけ、クルマはダメでも列車はいいのかな、なんてことを思った覚えがあります。ちなみにAMTRAKのシカゴ・ユニオン駅は、「アンタッチャブル」(1987)のクライマックスの銃撃戦が撮影された場所。乳母車がスローモーションで階段を転がり落ちる"オデッサの階段"に立ったときは、感激しました。

*       *       *

映画の最初から最後まで、ジャックは黒革のハーフ・コートを着たきりです。少しオツムの弱いセラノの子分が、"That's a nice Coat."などと羨ましがるのですが、私もかなりカッコいいと思いました、そのコート。というわけで、さっそく似たような黒革のハーフ・コートを買い、以来、穴があいても縫ったりして二十年近く着倒してきましたが、昨冬、傷みがひどくなったりカビが生えたりで、とうとう使い物にならなくなってしまいました。



ミッドナイト・ラン(原題: Midnight Run
製作国: 米国
公開: 1988年
監督: マーティン・ブレスト
製作総指揮: ウィリアム・S・ギルモア
製作: マーティン・ブレスト
脚本: ジョージ・ギャロ
出演: ロバート・デニーロ/チャールズ・グローディン/ヤフェット・コットー/デニス・ファリーナ/ジョン・アシュトン
音楽: ダニー・エルフマン
撮影: ドナルド・ソーリン
美術: アンジェロ・グラハム
編集: ビリー・ウェバー/クリス・レベンゾン


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コメント

[C603] おはようございます☆

この映画、素敵な本当に良い映画でしたネ。
デ・ニーロが好きではなかったのですが、この作品はすっごく好感持てました。
こちらの記事はいつものように詳しくて、ホントによく分からなかった部分も、分かるようになり、助かります。

>この移動手段の変更を余儀なくさせられる理由をいかにうまくつけるかが、逃亡系ロード・ムービーを面白くするひとつのキモだと思うのですが、この映画はそのあたりもばっちりなのです。

このあたり面白かったですね!
mardigrasさんはアメリカの地図が頭に入っているのでしょうから、余計面白かったと思います。

今年の5月に見たのです!!!
感想の駄文のURLをいれさせてもらいましたので、もしお時間があれば、お願いいたします。

ところで、今月も「ブログ DE ロードショー」 のご案内に参りました。
(おめでたい事に、1周年です♪)

作品名:『カプリコン・1』 
(1977年・アメリカ/イギリス製作作品 監督はピーター・ハイアムズ)です。

今月の、この作品を選んでくださったのは、 「 MOVIE-DIC 」 の 白くじらさんです。
(白くじらさんは、この企画に第4回目から参加して下さっています☆)

選んで下さった理由は

1・未だに実現していない火星有人探査を扱いながら、今でもありえそうな
  出来事という恐怖を、みなさんと味わいたいため。(^^;
2・最近、火星関係の作品を観て懐かしくなったため。
3・まるで生き物のようなヘリにまた会いたくなったため。
4・「ブログ DE ロードショー」一周年ということでここはSFかな!と。
5・といいながらもSFというよりはサスペンス仕立てなので、すんなり入れるかなと思って。

 ・・・との事です。

鑑賞日は7月9日(金)~11日(日)の三日間です。(お忙しくてご都合の悪い場合は後日でも結構ですよ~!)
是非、皆さんと、一緒の時期に、同じ映画を見て、ワイワイ言い合いたいと思います。
(感想・レビューは強制ではありません)

なお、このDVDは、大きなレンタルのお店に、存在するとおもわれますので、宜しくお願いします。

(っていうか、懐かしいって感じ?)

[C604] >miriさん

こんばんわ、いつも読んでくださってありがとうございます。

コメントいただいて、私もまたそろそろこの映画を観返してみたくなりました。miriさんの記事も読ませていただきますね。この映画のデ・ニーロがお好きなら、きっと「俺たちは天使じゃない」のデ・ニーロもきっとイケると思いますよ~。機会があればぜひ。

「カプリコン・1」ですか~。いやあ、いいですね!これ、テレビ以外で初めて観た洋画なんです。ぜひ参加させていただきます。

[C1092] Looks like I'm walkin'

デ・ニーロ好きとしては,この映画は欠かせません.デ・ニーロを演技派俳優としてか見てない人には,是非観てほしいですね,演技派故の妙味というやつを.高校生時代に初めてみて,その後何回観たことか.しかし,観る度に,相手役のチャールズ・グローディンの方の印象が強くなってしまう。この人,上手ですよね.

私にとってこの映画の白眉シーンは,何と言っても別れた子供,長女に再会するシーンです.例によって夫婦(では既にないが)喧嘩を始めた最中,その少女に気付いて二人共沈黙...。「大きくなって...」「何年生だ?」としか言えないデ・ニーロ.その直後の悲しみと愛おしさと男の意地が複雑に混ざってしまい,何かを言おうとしても言えないその表情と間....(うまく表現出来ませんが,伝わりますでしょうか?)。思い出しても涙が出ます.私も現在似たような状況になってしまったので,尚更よく分かるのです.その後,借りた車に乗るシーンで,ジョナサンのコートを車のドアに挟まれないように直すシーンでは,ジャックが普通のやさしいオジサンになっていました.その後の80ドルだったかを長女が渡そうとするシーンは,もう胸いっぱいで書けません.

湿っぽい話はともかく.冒頭のイラストは,飛行機の中でジャックがジョナサンに言う「手錠は外してやる.他の乗客と話をするのは構わないぜ.話の合いそうな人たちだ.皆,横領犯かも(一人で爆笑)」のシーンですね?大好きなシーンです.

他の私のツボは
「彼の本名はモーズリです」「俺がモーズリだ!!」
「バカNo.1か?バカNo.2を電話に出せ!」
  • 2014-02-14 00:55
  • きるごあ
  • URL
  • 編集

[C1093] >きるごあさん

チャールズ・グローディン、いいですね~。デ・ニーロひとりだけじゃダメで、この人とのセットでこそのこの映画、だと思います。

子供と再会する場面、おっしゃりたいこと、よ~くわかります。ここのペーソスは、ちょっと反則的なくらいにきますね、特に子供を持つ身になると。

イラストはおっしゃる通り、飛行機の中でジャックが得意満面でジョークを飛ばすところです。デ・ニーロの一人爆笑、最高です。

なんだかきるごあさんに、記事には書かなかった、「ミッドナイト・ラン」のこれはという場面とギャグを補っていただいたような気がします。コメント読ませていただいて、久しぶりに観返したくなりました。

この映画、昔から、不思議と特別感がないというか、ほかにいくらでもありそうな映画、という印象だったりするのですが、でもこうして公開から二十数年経ってみれば、やっぱり滅多にない、奇跡的によくできた映画だったんだな、と改めて思います。
  • 2014-02-15 22:20
  • Mardigras
  • URL
  • 編集

[C1221] 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

[C1224] Re: はじめまして。

いまさらのご返事ですが、コメントありがとうございます。
この映画、行程をマッピングしたくなりますよね。実際やってみると、やや厳しくても移動可能なルート&リアリティのある時間経過であったことがわかって嬉しくなりました。やっぱりしっかりした映画の作り手は、いい加減なことせずにしっかり作るんだなと思いました。
単なる映画好きで仕事とは何の関係もないのですが、信頼できる監督や作り手の映画は、すべてにちゃんと意味があってこうなってるんだろうなと思い、何度も観直していろいろ考えをめぐらしてみたくなります。また年をとればとるほど、好きな映画がますますいとしく思えてくる気がしてます。
  • 2023-04-12 01:23
  • Mardigras
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