
「わが谷は緑なりき」(1941)、「にあんちゃん」(1959)、「青春の門」(1975)、「幸福の黄色いハンカチ」(1977)、「天空の城ラピュタ」(1986)、「ブラス」(1996)、「リトル・ダンサー」(2000)、「ディア・ウェンディ」(2005)、「フラガール」(2006)そしてこの「遠い空の向こうに」(1999)...とまあ、ジャンルもテーマもばらばらのこれらの映画には、実はひとつの共通点があります。それが何かといえば、そう、もうおわかりですね。それはどの作品もみな、炭鉱町が舞台になっているということです(だから何?)。
というわけで、ブロガーの皆さん一緒に同じ映画を観ましょうという企画、ブログDEロードショーの第14回目に参加しました。こたびの作品は、ジェイク・ギレンホール主演、ジョー・ジョンストン監督の「遠い空の向こうに」。ウェスト・バージニアの盛期を過ぎた炭鉱町を舞台に、夜空に輝く人工衛星に触発されたフツーの高校生が自らロケットづくりに挑戦し、仲間とともに幾多の困難を乗り越えながら、夢に向かって成長していく姿を描いた青春ドラマです。
今回の作品チョイスは、「ピエロと魔女」のたそがれピエロさん。この映画、観たことないどころかその存在すらまったく知らず、ふと振り返ってみれば、これまでこの企画のお題となった作品はみな、観たことある映画かさもなくば名前すら知らなかった映画...となぜか極端なことになっています。で、そんな存在すら知らなかった映画のほとんどが、いざ観てみれば佳作、良作、傑作ぞろいで、お宝はまだまだあるのだなあ、としみじみ思う次第。そして今回の「遠い空の向こうに」もまた、ずいぶん泣かせてアツくさせてくれる、素晴らしい映画でした。
ちなみに冒頭のイラストは、ローラ・ダーン演じるエリー・サトラー博士、じゃなくてライリー先生。それにしても、教室の黒板の"ロケット・ボーイズ"の落書き、味がありましたね~。これ描いたヤツ、お前は炭坑夫じゃなくて、マンガ家を目指せ!
"炭鉱モノ"にハズレなし
この映画、オープニングで炭鉱町の風景が映し出された瞬間に脳みそが反応し、期待度が一気に高まりました。なぜなら炭鉱町を舞台にした映画にハズレなし、という経験則があるからです。
危険と隣り合わせの職場、厳しい経済事情、産業の斜陽化にいや増す不安と閉塞感の中で、炭坑マンとしての誇りを胸に真っ黒になって働く男たちの気概と男の帰りを待つ家族の悲愴感。男たちの連帯、労使間の軋轢、そして自らの生き方にこだわる頑固一徹な親世代と外の世界を夢見る子供世代の葛藤...とまあ、エキストリームな環境ゆえに、人間の営みにまつろう本質的なあれこれが否応なしに剥き出しとなり、それが邦画であろうと洋画であろうと、まさに"炭鉱モノ"と呼ぶしかない、一種独特の叙情と哀感を漂わせながら、蒸留酒のように、濃ゆ~いドラマを垣間見せてくれるのです。
そして「遠い空の向こうに」もまた、まぎれもなく、そんなフォーマットに則った一本。しかも"炭鉱モノの決定版"といいたくなるくらい、炭鉱モノに期待するすべての要素と味わいが、満遍なく、そしてバランスよく詰め込まれた一本です。これさえ観れば、ほかの炭鉱モノは観る必要なし...なんてことはありませんが、「遠い空の向こうに」に描かれた、頑固一徹な父と慈愛に満ちた母は、いわば「わが谷は緑なりき」の父と母なのであり、また主人公を外の世界へといざなうライリー先生は「青春の門」の梓先生、そして彼らの夢を乗せたロケットは「リトル・ダンサー」のバレエでもあれば、「フラガール」のフラ・ダンスでもあり、また「ブラス」のブラス・バンドでもあれば、「ディア・ウェンディ」の拳銃だったりもするのです(ちょっと違うのも混ざってますが、まあいいや)。
"スプートニク"にインスパイアされる人、されない人
運命を自らの手で切り拓いていく人間を描いた映画はたいてい、ああ観てよかったと思わせられるものですが、この作品もまた、掛け値なしにそう思えた一本です。そして同時に、できることならばもっと若い頃に観たかった...なんてことを思わずにいられなかった一本でもあります。今作の推薦人、たそがれピエロさんは、この作品を観て理系を志したそうですが(それに比べ、ジャッキー・チェンの映画に影響されてカンフー修行(独学)に明け暮れていた中学生の頃の自分が悲しい)、そのお気持ち、なんとなくわかるような気がしました。人生を力強く肯定する「遠い空の向こうに」は、単に感動を与えるだけでなく、観る者の心と身体に作用する、もっとプラグマティックなパワーを持っているように思います。"むしろオトナにこそ読んでほしい..."なんて評され方をする極上のジュブナイルがありますが、この映画の味わいは、まさにそんな感じでもありました。
主人公たちが夢を諦めなかったことも、そして努力の末に夢を叶えたことも素晴らしいに決まっているのですが、しかしそれと同じくらい、夢中になれるものを見つけたこと自体に素晴らしさを感じます。人生、これだと思うものにめぐりあうことはなかなかに難しいのであり、ロケット好きでもなんでもなかったひとりの(落ちこぼれっぽい)高校生が、夜空を横切る人工衛星に感動し、ロケットづくりに挑戦しようと思い立ったことこそが、何といっても素晴らしいと思うのですね(そして主人公だけでなく、アメフトで夢を掴んだお兄さんも素晴らしいし、炭坑夫であることに強い誇りをいだいているお父さんも素晴らしい)。人の運命を変えるきっかけは、どこにでも転がっていて、しかしそれを掴むも掴まぬも、きっとその人の持つアンテナの感度次第...それもまた、ひとつの才能だったりするのでしょう。主人公たちと同じ年頃だった私の目の前を、きっと私自身の"スプートニク"が何度か横切ったはずですが、しかし私の場合はぼーっと眺めるだけに終わってしまったようで、そんな我が身を振り返ってみるにつけ、スカッとしたすがすがしさ一辺倒の観後感の中に、小指の先ほどのほろ苦さを感じてしまったりもします。
主人公たちの成長はロケットの上昇距離によって測られる
「遠い空の向こうに」の類稀なわかりやすさ(=観る人の心を打つ力、と言い換えてもいい)は、主人公たちの打ち上げるロケットの上昇距離と彼らの成長が、ぴたりとリンクしているところにあります(ついでに言えば、主人公と父親の間にわだかまる距離とは反比例の関係にある)。真っ直ぐ飛ばなかったり、引力に負けて地上に何度も叩きつけられたりするロケットは、そっくりそのまま、コールウッドに縛り付けられる彼ら自身のメタファーであり、改良されたロケットの上昇距離が伸びるたび、きっかりその分、彼らもまた一回り大きくなっていくかのようです。挫折と再生を繰り返し、すべての困難を乗り越え、そしてついにロケットが天空に向かってどこまでも真っ直ぐに飛んでいったとき、彼らもまた、己のくびきとしがらみを見事にぶち破って外の世界へと飛び出していく...というわけで、要するに、主人公たちの成長っぷりが一目瞭然なのですね。
主人公たちの夢のみならず、彼らを取り巻くさまざまな人たちの思いを乗せたロケットが、遥か彼方へと消えていくクライマックスには、ホント、感動しました(ロケットが飛んだ瞬間、何事にも動じなかった頑固一徹なお父さんが、おったまげた表情をするのが最高)。思えばこの映画、何から何まであつらえたようにまとまっていて、正直、ちょっと出来すぎだろ、と言いたくもなったりするのですが、しかし実話に基づいているというのだから、出来すぎもへったくれもあったもんじゃないというか、いびつなところのまったくない、そのドラマの美しすぎる完結っぷりに、ただただ脱帽するしかありません。しかも主人公(=原作者)は、長じてNASAのロケット・エンジニアになったというのだから(ラストでロケットにオーバーラップするスペース・シャトルの映像も、つまり単なるイメージではないのですね)、ホント最後の最後まで、出来すぎ美しすぎの物語なのです。
遠い空の向こうに(原題: October Sky)
製作国: 米国
公開: 1999年
監督: ジョー・ジョンストン
製作総指揮: ピーター・クレイマー/マーク・スターンバーグ
製作: チャールズ・ゴードン/ラリー・J・フランコ
脚本: ルイス・コリック
原作: ホーマー・ヒッカム・ジュニア(「ロケット・ボーイズ」)
出演: ジェイク・ギレンホール/クリス・クーパー/ローラ・ダーン
音楽: マーク・アイシャム
撮影: フレッド・マーフィー
美術: バリー・ロビソン
編集: ロバート・ダルヴァ
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先生の夢は、別の先生に引き継がれ、今では全米の教科書に載るくらいのお話だから、彼らを教えて、最初の背中を押した事、そのためにあの町で教職に就かれた・・・そんな気さえしました☆
>ホント最後の最後まで、出来すぎ美しすぎの物語なのです。
もう本当に困りました、涙線崩壊、って私にはあまりない事で(再見を除く)・・・困りました。
では、次回はmardigrasさんのお選びになる作品を、皆さんと一緒に楽しみたいと思います♪
初めて、だなんて(2001年宇宙の旅、影武者を除く)信じられませんよね~!
きっと、皆さん、すっごく期待していますよ☆(ハードル上げて差し上げました)