
数年前から映画を観るたび簡単な感想を書き残していて、ついでに星の数でもって点数を付けています。今回の記事は、このメモ書きから昨年観た映画、全99本の感想文。私にとって2017年は、この十年間で間違いなく、ぶっちぎりで数多くの映画を観た年でした。
ちなみにイラストは、12月に4本まとめて観たダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じる007シリーズの第一作、「007 カジノ・ロワイヤル」(2006)より、ボンド・ガールを演じたエヴァ・グリーン。いや、お美しい。
さてこの調子で、今年も浴びるように映画を観たいものであります!
※採点は、☆5つが最高。★は☆半分相当。☆4つ以上だとかなり満足。*は、再見。
1月
「Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!」* ☆☆★
(2007年 イギリス/フランス/ドイツ)
元日に子供と鑑賞。ビーンがクルマを運転していて眠気に襲われる場面の演技が笑える。
「ねえ、キスしてよ」☆☆☆☆
(1964年 米国)
ビリー・ワイルダーのコメディ。そつがない。脚本に弛みやスキがまったくない。ディーン・マーティンの好色なにやけ顔が、絵に描いたようなにやけ顔なのがすごい。そして言うまでもなく、キム・ノヴァクがいい。
「ゼロの焦点」* ☆☆☆
(1961年 日本)
2月の北陸旅行の予習として鑑賞(ロケ地訪問記はこちら)。
「北陸代理戦争」* ☆☆☆☆
(1977年 日本)
2月の北陸旅行の予習として鑑賞。現実が映画のドラマを追い越してしまった、稀有な映画。なお旅行には、本作製作の裏側を取材した「映画の奈落: 北陸代理戦争事件」(伊藤彰彦著)を持参。
2月
「南極物語」☆★
(1983年 日本)
断片的な映像の記憶が微かに残っていたので、大昔にテレビで観たのかも。極地のロケ映像がすごい。音楽も映像にマッチしている。しかしそれくらい。
「海峡」☆☆★
(1982年 日本)
観たことあると思い込んでいたが、観たことなかった。吉永小百合の演じる女性の役が浮いているというか、吉永小百合だから浮いているというか。森繁久彌はさすが、トンネル掘り一筋のオヤジに見えた。プロジェクトX的な群像劇であるべきはずのドラマが「健さん映画」になってしまっている。そこに違和感がある。
「ラットレース」☆☆★
(2001年 米国)
キャノンボール型ロード・ムービー。子供と鑑賞。ホラーなキャシー・べイツが最高。
「マスク」* ☆☆☆☆
(1994年 米国)
子供と鑑賞。さすがに昔ほどは笑えなかった。
「君よ憤怒の河を渉れ」* ☆☆☆
(1974年 日本)
北陸旅行の復習として鑑賞。倍賞美津子がいい。中野良子のよさは、やっぱりよくわからない。原田芳雄のカッコつけが笑える。「第三の男」(1949)のハリー・ライムのテーマの出来損ないのようなずっこけ音楽を聴くと、やっぱり音楽って重要だなとしみじみ思う。
3月
「ヘイトフル・エイト」☆☆☆☆
(2015年 米国)
以前、映画館で見たチラシでは"ミステリー"と謳われていたが、まったく違った。やっぱり。コーヒーを飲み終えたカート・ラッセルの演技が最高。
「カールじいさんの空飛ぶ家」* ☆☆☆☆
(2009年 米国)
二度目。子供と鑑賞。きめ細かい絵の美しさに惚れ惚れする。
4月
「64-ロクヨン- 前編」☆☆☆☆
(2016年 日本)
見ごたえあり。後編の期待感を煽りまくる締めくくりのタイミングが素晴らしい。俳優陣がなかなかいい。興ざめする演技がほとんどなく、滝藤賢一がやや類型的すぎるくらい。佐藤浩市演じる三上の娘が、なぜ三上と顔が似ていることを嫌悪しているのか、佐藤浩市が二枚目であるがゆえにわからない。河原の道にぽつんと立つ電話ボックスのオープンセットがいい。
「64-ロクヨン- 後編」☆☆
(2016年 日本)
クライマックスの一歩手前まで、とてもよかったと思う。それにしても、原作から改変されたクライマックスはまったくヒドイ。ドラマの格調をそれまでの高みから一気に引きずり降ろして、作品の世界観を安いものにしてしまった。
「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」* ☆☆☆☆☆
(1995年 日本)
今観てもすごい映像。
「マネーボール」☆☆☆☆
(2011年 米国)
面白い。そもそも原作がすごく面白い。この映画に描かれているようなことが、要するに"イノベーション"なのだと思う。GMを演じるブラッド・ピットがいい。彼と娘の場面がいい。それからフィリップ・シーモア・ホフマンは、いかにも野球監督らしい。二人のやり取りを通じて、GMと監督の役割分担がよくわかった。イチローがちらりと映った。
「ゴースト・イン・ザ・シェル」☆☆☆☆
(2017年 米国)
新宿東宝シネマズで鑑賞。4D MAX、吹き替え版。押井版へのリスペクトがすごい。そしてそれが心地よい。吹き替え版で観てよかったと思う。押井版のテーマを棄てて、わかりやすいストーリーに徹したことは納得できる。それでよいと思う。そうしてよくできていた。
配役は皆よかった。いろいろ批判もあるが、主役はスカーレット・ヨハンソンでよかったと思う。たけしもOK。ジュリエット・ビノシュも、桃井かおりも、バトーの俳優もよかった。トグサもぎりぎり。メカの造形も、犬もよかった。音楽がオリジナルと同じだったらもっとよかったのに、と、鑑賞しながら残念に思っていたが、最後の最後で押井版のテーマ曲が流れ、感激した。
「イノセンス」* ☆☆☆☆
(2004年 日本)
「ゴースト・イン・ザ・シェル」を観て、久しぶりに観たくなった。やりきれないほど暗い。ストーリーも、キャラクターも、絵も、音楽も。それでもたまに観返したくなる。
「僕たちの家に帰ろう」☆☆☆★
(2015年 中国)
弟役の子供がいい。一緒に旅するラクダがいい。兄弟が川で素っ裸になって遊ぶ場面がいい。ぐっとくる。ラストの工場の映像のインパクトがすごい。「西遊記」の舞台、河西回廊の実際の風景を観られただけでもうれしい。
「デリンジャー」☆☆★
(1973年 米国)
ジョン・ミリアスのデビュー作。銃撃戦の場面はなかなか。1930年代の米国の田舎の映像の雰囲気もいい。ところどころ、ジョン・フォードと黒澤明へのオマージュがあからさますぎてこなれておらず、やや白ける。
「攻殻機動隊 新劇場版」☆☆☆
(2015年 日本)
絵柄に違和感があったが、そのうち慣れた。
「娘よ」☆☆☆★
(2014年 パキスタン)
岩波ホールで鑑賞。美しく厳しいパキスタンの山岳地帯と埃っぽい山村の風景、そして絵具で塗ったような空の濃い水色に☆、パキスタンの見慣れぬ風俗や文化、慣習、生活の様子の物珍しさ、人々の服装やトラックの原色づかいの派手な美しさに☆、終始見惚れっぱなしだった主演女優の美しさに☆、ロード・ムービーであったことに★。初監督作品らしい生硬さが滲む、奇をてらわないストーリー展開とやや盛り上がりに欠ける演出。少々稚拙なラストの演出と演技。しかし、家を逃げ出す場面の演出はよかった。パキスタンのものと思われる音楽も。知らない国のロード・ムービーは、やっぱりいい。
「続・夕陽のガンマン」* ☆☆☆☆
(1966年 イタリア)
以前観たときより面白く感じた。長いので鑑賞時にこっちに気持ちの余裕が必要かもしれない。音楽がいい。イーライ・ウォラックの愛嬌がいい。墓場のかま走りが笑える。リーバン・クリーフのシブさがいい。男たちのひげ面のひげの生え方のバリエーションがたっぷり。今さらながら、ロード・ムービーだったことに気がついた。
「あの子を探して」☆☆☆★
(1999年 中国)
高倉健がこの映画を褒めているのをどこかで読んで、鑑賞。終始ユーモラスで、ところどころ笑えた。子供たちの笑顔がいい。13歳で小学校の先生にさせられてしまったウェイ先生の13歳らしさがいい。道徳観念の薄いところとか、子供相手のエゴだとか、無知なところとか、子供らしいいじましさとか、緊張して気が張っているところとか、一生懸命さとか、テレビに出てきょどっているところとか。ファンタジックなラストはややご都合主義的か。エンディングの子供たちが色とりどりのチョークで字を書いた黒板が美しい。
5月
「私は二歳」☆★
(1962年 日本)
何度かに分けてようやく観終わった。これでは「映画を観た」とは言えないかもしれない。いろいろな面で非常に古臭いという感想。名前だけは知っていた山本富士子という女優を初めて見た。グラマラスで色っぽい。浦辺粂子がいかにもフツーにいそうなおばあさん。船越栄次郎の顔色が悪い。
「逃走特急 インターシティ・エクスプレス」☆☆★
(1998年 ドイツ)
タイトルがひどい。想像していたドラマと違った。北欧の船の旅やもの寂しげな田舎の何気ない風景がよかった。主役俳優がヒョードルに似ていた。
「魔女の宅急便」☆☆☆☆★
(1989年 日本)
子供と一緒に鑑賞。有名な映画だが初めて観た。絵がキレイ。音楽がいい。ジブリ映画の浮遊感と飛翔感はやっぱり素晴らしい。善人しかいない世界で、たまにはこういうのもいい。
「ゴーストバスターズ」☆
(1984年 米国)
日本語吹き替え版。子供と鑑賞。喜んでいた。いくつかの場面の記憶があったので、大昔にテレビで観たかもしれない。「子供だまし」ということばが頭に浮かんできた。やっぱりビル・マーレイがイヤだ。
「トップガン」* ☆☆☆☆☆
(1986年 米国)
子供と鑑賞。久しぶりに観た。しかも字幕版を観たのは30年ぶりに近い。何度観ても面白い。ティム・ロビンスが出ていたことに初めて気がついた。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」* ☆☆☆☆☆
(1985年 米国)
日本語吹き替え版。子供と鑑賞。何度観ても、ホントによくできている。てらいのない物欲が、時代だなと改めて思う。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」* ☆☆☆☆★
(1989年 米国)
日本語吹き替え版。子供と鑑賞。ちょっと難しかったか。
「ファインディング・ドリー」☆☆☆☆
(2016年 米国)
子供と鑑賞。日本語の吹替がいい。特に子供のときのドリー。ギャグがおもしろい。それにしてもアニメとは思えない表現力。ここまできたかと思う。
6月
「日本侠客伝」☆☆☆
(1964年 米国)
笠原和夫の本を読んで、観たくなった。テンポだとか映像だとかストーリーだとか、全方位的に古いという印象。これが新しかった時代があったのだ。ブルース・リーの「ドラゴン怒りの鉄拳」(1972)や「ドラゴン危機一発」(1971)といろいろな意味で似通っていて、ひょっとするとブルース・リー映画は日本の任侠映画のフォーマットに則っていたのかも、と思う。萬屋錦之助が抜群にいい。眼に力みがない、誠実そうな、落ち着いた雰囲気がよかった。
高倉健は、私の知っている高倉健だった。つまり中年以降の高倉健は、ヤクザ映画の高倉健と地続きだったことを知った。「網走番外地」(1965)や「宮本武蔵」五部作(1961-1965)のヘンな高倉健が、特別だったのだと思う。とはいえまだ貫録不足で、健さんが登場しても、もうこれで任せておけばOK!みたいな安心感がなかった。またクライマックスのチャンバラは、地に足がついていないように見えた。ぶっちゃけ、下手。当時はそれがリアルだと歓迎されたようだが。
「氷壁」☆☆☆
(1958年 日本)
ロケ撮影がいい。クライミングのリアリズムはなかなか。当時の上高地や徳沢の映像がいい。それだけでも観た価値がある。この映画の山本富士子の魅力がよくわからない。グラマラスを超えて太すぎて、化粧が濃すぎる感じ。
「ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録」☆☆☆☆☆
(1991年 米国)
25年越しで、ようやく観ることができた。素晴らしい。画面からじわじわと狂気が吹きこぼれてくるかのよう。劇中のウィラードの心の旅が、つまりコッポラの旅でもあったことがよくわかった。終盤は、コッポラの魂の叫びが聞こえてくる。奥さんのエレノアがそばにいて、コッポラはどれだけ救われただろうかと思う。
このドキュメンタリーを観ても、「地獄の黙示録」(1979)はいまだ底が知れない。そこがいい。「地獄の黙示録」のエンディングをどうするかが撮影時には決まっておらず、2年半のポスト・プロダクションの間に固められたものであることがよくわかる。主役交代、フィリピン軍の離脱、台風襲来、マーティン・シーンの急病、予算オーバー、破産の恐怖、そして怠惰なマーロン・ブランド。頭がおかしくなりかけるのも、自殺したくなるのもよくわかる。すごいドキュメンタリー。
7月
「シン・ゴジラ」☆☆☆☆
(2016年 日本)
ゴジラが変態する、という発想が面白かった。ゴジラのめちゃくちゃな強さにカタルシスがあった。俳優たちの演技もよかった。この映画のストーリー・ラインとゴジラという存在のわけのわからなさに「エヴァンゲリオン」の香りがした。
「遥かなる山の呼び声」* ☆☆☆☆☆
(1980年 日本)
7月の北海道旅行の復習。何度観てもいい。ロケ地を訪れてきたばかりなので、なおさら。
「幸福の黄色いハンカチ」* ☆☆☆☆☆
(1977年 日本)
これも7月の旅行の復習。
「ジュラシック・パーク」* ☆☆☆☆☆
(1993年 米国)
上野の博物館に恐竜の化石を見に行った後で、子供と鑑賞。
「ピッチ・パーフェクト2」☆☆☆★
(2015年 米国)
下品だが、前作ほどではない。上手なアカペラを聴くのはやっぱり快感。前作「ピッチ・パーフェクト」(2012)のキー・パーソンだった卒業生二人が途中で登場してくるのが、ボーナスみたいでよかった。アメリカの大学生活の風景が懐かしい。
「男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎」*☆☆☆
(1984年 日本)
7月の北海道旅行の復習。これまで何度か観た中で、いちばん面白く感じられた。
「男はつらいよ 知床慕情」*☆☆☆★
(1987年 日本)
これまたこれまで何度か観た中で、もっとも良く思えた。三船敏郎がいい。知床の風景もいい。竹下景子も美しい。バードウォッチングが出てくるめずらしい映画。
「ブリッジ・オブ・スパイ」☆☆☆☆
(2015年 米国)
コーエン兄弟の脚本。アメリカの良心を描いた、良質のドラマ。トム・ハンクスに貫録があって、いい歳のとり方をしていると思った。橋の上でのスパイの交換。大国と大国が、こんなウソみたいにくだらないことをしていたのだ。弁護士というプロフェッションは、意識の持ちようによって、かくも素晴らしい仕事を成し遂げることができるプロフェッションなのだなあ、と改めて思った。
8月
「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」* ☆☆☆☆☆
(1975年 日本)
7月の北海道旅行の復習。改めて観て、小樽の坂の場面が、港側だけでなく、神社を挟んだ反対の教会のある側でも撮影されていたことに気がついた。映画の塩谷駅は、現在と違って道路から段差なしに地続きになっているように見える。
「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」* ☆☆★
(1997年 米国)
最初に映画館で観たときが一番面白かった。観返すたびに落ちていくのは仕方がない。ゴッサムシティの街の造形は、やっぱり素晴らしい。
「オリエント急行殺人事件」* ☆☆☆★
(1974年 イギリス)
原作にかなり忠実で、配役が超豪華。それだけでうれしくなる。なんとなく覚えている場面や映像があって、中学生か高校生の頃にテレビで観たのかも、と思いながら観ていたが、あとでメモを見返したら、2011年に観ていることが分かった。驚き。まったく記憶にない。歳をとるにつれて、本も映画もきれいさっぱり記憶に残らないことが増えている。
「ルパン三世カリオストロの城」* ☆☆☆☆☆
(1979年 日本)
子供と一緒に鑑賞。ジブリ作品の中で一番面白い。
「レヴェナント:蘇えりし者」☆☆☆
(2015年 米国)
追跡型サバイバル・ロード・ムービー。劇場で予告編を何度か観て、観たいと思っていた。やや長いか。飽きなかったが。北米の手つかずにも思える大自然を捉えた映像が美しい。熊に襲われる場面の映像がリアルで、ホントにこんなふうに人を襲うのかどうか知らないが、驚いた。それにしても、「プライベート・ライアン」(1998)以降、定番になったリアルな残酷描写は、こうリアルである必要が本当にあるのか。
「エネミー・ライン」* ☆☆☆
(2001年 米国)
三回目。湖のきわに立つ巨大な石像がいい。昔、釣りに行ったメキシコの湖の風景を思い出す。さすがにこう何回も観ると、いろいろアラが目について点数が下がる。戦闘機の飛行シーンは変わらず迫力がある。
「狂った果実」☆☆☆★
(1956年 日本)
鎌倉や逗子、湘南の当時の映像が興味深い。"太陽族"が、甘やかされた金持ちのドラ息子たちだということがよくわかった。石原慎太郎が売れっ子だったということは、当時の人たちにとって、この世界が憧れだったということなのか。若い頃の津川雅彦や岡田真澄がかなりハンサム。石原裕次郎はそれほど二枚目とも思えないが、強烈な存在感がある。歌がやたらとうまい。耳を傾けずにはいられない。また北原三枝に映画の中の男たちが惹かれるのもよくわかる。ラスト、ヨットの周りをモーターボートでぐるぐる回る津川雅彦の表情がよかった。ヨットの浮かぶ海がきらきらとキレイで、日本離れした景色に思えた。
「博奕打ち 総長賭博」☆☆☆
(1968年 日本)
鶴田浩二の役柄、雰囲気、たたずまいを見て高倉健を思い出した。そっくり。高倉健は鶴田浩二の後継者だったのか?主人公が筋を通そうとすればするほどにっちもさっちもいかなくなって、ドツボに嵌まっていくドラマ展開は、「仁義なき戦い」(1973)の原型ともいえる。金子信雄の役柄もそのまんま。
「黄金の犬」* ★
(1979年 日本)
以前、テレビで観たことがあるはずだが、改めて観ると、とにかくひどかった。もしかすると、これまでに観たもっともひどい映画かもしれない。めちゃくちゃな脚本、ぐだぐだな演出。リアリティがないにもほどがある。ほぼすべての展開に必然性がなく、いちいちおかしなことだらけ。ある意味、仮面ライダーのような子供向け特撮ヒーローものよりリアリティがない。そもそも冒頭、犬が置き去りにされる必然性からしてまったくないところがすごい(つまりその後に続くドラマのすべてが成立しない)。島田陽子と特別出演の菅原文太にかろうじて★。
「また逢う日まで」☆☆☆★
(1950年 日本)
やっとというか、ついに観た。こういうドラマだったのか、と思う。反戦メッセージがストレートすぎて、今の時代の目で見ると、そこがやや白ける。伝説の名場面、ガラス越しのキスのあとで、ばんばん直接キスする場面のあったのは予想外。久我美子が美しい。強い意志を宿した目元が崩れる笑顔がいい。これまで観た出演作の中でいちばん綺麗に思えた。
「菊次郎の夏」☆☆★
(1999年 日本)
子供と鑑賞。とにかく久石譲の音楽がいい。それから細川ふみえが予想外によかった。ひょうきん族のノリの安っぽいギャグや、たけし軍団の内輪的な空気がイヤ。子供の夢の場面のヘンなダンサーたちの踊りもいかがなものか。ある意味、ぐだぐだな脚本と演出。とはいえ最後まで観させる。音楽の力が大きいと思う。
「殺人者はバッヂをつけていた」☆☆☆★
(1954年 米国)
シナリオがいい。いきなり銀行強盗が始まり、セリフなしで展開する、テンポのよい幕開け。アパートの対面からの監視は、同年公開の「裏窓」(1954)を思わせた。フレッド・マクマレイの顔とたたずまいが嫌い。ビンス・マクマホンやドナルド・トランプに一脈通じる、傲岸不遜で偉そーな白人(アメリカ人)というイメージ。この映画の主人公に相応しい。こちらも同年公開、「十二人の怒れる男」(1954)の陪審員四番が警部補役で出ていた。それからなんといっても、これがデビュー作のキム・ノヴァクが素晴らしい。とはいえフレッド・マクマレイを翻弄するほどの悪女には見えなかったが。
「ファスト・コンボイ」☆☆☆★
(2016年 フランス)
ロード・ムービー仕立ての会話ドラマとして面白い。余計な背景説明がないのがいい。運び屋の運び屋としての仕事風景を描いている。ネットで見た評価が思いのほか低くて驚いた。アクション映画と捉えると、この映画の面白さを見逃してしまうと思う。
「ヒット・パレード」☆☆☆★
(1948年 米国)
ビリー・ワイルダー脚本、ハワード・ホークス監督。面白くないわけがないと思う。ジャズをめぐる話とは知らなかった。ベニー・グッドマンやルイ・アームストロングが出演している。当然ながら、音楽がいい。"Song is born"のセッションや、ベニー・グッドマンの教授が初めてジャズに挑戦する曲がよかった。
「ナッシュビル」☆☆☆★
(1975年 米国)
長い。しかし飽きない。この時代のアメリカの一断面、という感じ。カントリー・ミュージックがなかなか。ヘンリー・ギブソンの"Keep A'Goin"がよかった。知らない俳優ばかりと思ったが、チェックしてみると過去に一度はどこかで見たことのある人が多かった。バーバラ・ハリスが最後にチャンスをつかんでしまうところがアルトマンぽい。「M*A*S*H マッシュ」(1970)と同じく、カタルシスのあるクライマックスのない、読点くらいで終わる映画なんだろうなと予想していたが、違った。そしてそのオチは、途中から何となく想像のつくものだった。この映画の大統領候補の選挙公約のポピュリズムには、トランプに一脈通じるところがあった。
9月
「レミーのおいしいレストラン」*☆☆☆★
(2007年 米国)
子供と鑑賞。ところどころ覚えている映像があり、観たことがあることに気がついた。絵が美しい。動きが素晴らしい。ネズミが作る料理、というのが生理的にちょっと。
「ダンディー少佐」☆☆
(1965年 米国)
だらだらとまとまりのない、めりはりのないところは「ビリーザキッド/21歳の生涯」(1973)に通じる感じ。ペキンパーなのにフツーの映画。アパッチ討伐のボランティアを募るところが「七人の侍」(1954)っぽいと思ったが、異常な執念で追跡するところはメルビルの「白鯨」か。リチャード・ハリスがいい。チャールトン・ヘストンは、表情に知性があまり感じられないというか、ウドの大木っぽいところがある。嫌いじゃないが。クライマックスのフランス隊との騎馬戦闘場面は、明確に「七人の侍」の影響が感じられる(牧師が騎馬兵を切るところとか)。
「ニッポン無責任時代」☆☆☆☆★
(1962年 日本)
穴がないオモシロさ。挿入歌がすべていい。C調を体現する植木等の軽さ、ノリ、表情、動きのキレ。素晴らしい。声がいい。よく見れば正当な二枚目。当時の東京の街並みの映像やサラリーマンの風俗の描写もいい。
「サーミの血」☆☆☆★
(2016年 スウェーデン/ノルウェー/デンマーク)
アップリンク渋谷にて鑑賞。見応えあり。スウェーデンにも民族問題があったとは。サーミ人の少年少女たちが、スウェーデン人の目を気にしてびくびくしながら道を往く場面、先生が彼らを実に自然に差別する場面、それから主人公の少女がダンス・パーティに自分を探しに来た妹に侮蔑的な言葉を投げつける場面...胸が締め付けられた。
自分が望む未来を掴むために家族やアイデンティティを棄て、出自を隠して差別する側に回ってしまった主人公の胸の内が悲しい。利口で差別に甘んじる自分を許せなかった彼女が、差別が当たり前の時代の中でそう生きるしかなかったことがよく伝わってきた。最後、妹の亡骸に向かって謝っても、その来し方を後悔しているわけではないのだと思った。そしてサーミの血を引く彼女の息子に被差別意識がなく、自らのルーツとしてサーミの社会に積極的に入り込んでいく様子もまた、今の時代の真実なのだろうなと思った。主人公や妹の口ずさむ民謡の響きに、どこかしらアジアの音楽と響き合う懐かしさがあって不思議な気がした。
10月
「五福星」* ☆☆☆
(1984年 香港)
子供と鑑賞。ストーリーやエピソードをかなり忘れていた。とはいえローラー・スケートのトラックくぐりと透明人間のエピソードだけは忘れようがない。
「ターミネーター」* ☆☆☆☆
(1984年 米国)
子供と鑑賞。つくづくアイデアが素晴らしい。そしてシュワルツネッガーの最高のはまり役だと改めて思う。今観ると特撮のちゃちさはどうしようもない――というのは、この映画を再見したときのお決まりの感想。
「たそがれ清兵衛」* ☆☆☆☆★
(2002年 日本)
三回目。何回観てもいい。ただしクライマックスの決闘場面は、三回目ともなると会話が長くてややだれる印象。またエンディングの岸恵子はいらないように思う。岸恵子が出てこないと、その後の清兵衛と一家がどうなったのかわからなくなるが、それはそれでよかったのではないか。
「エベレスト3D」☆☆☆☆
(2015年 米国)
邦題の「3D」というのはなんだろう。ずいぶん昔に原作を読んだ。圧倒的に美しいヒマラヤの映像とエベレスト商業登山のリアリティある描写。ベース・キャンプ、アイス・フォールのラダー・ブリッジ、サウス・コル、ヒラリー・ステップ、そして頂上へと続く最後の斜面。これらを描いたすべての映像が素晴らしい。ただそこにいるだけで消耗してしまうデス・ゾーンの、いつの間にか消耗してしまう感じがよく描かれていた。どれだけ商業登山が盛んになろうと、お金では買い切れない、選ばれた人しか行けない場所なのだとしみじみ思う。そうして結局、運にも恵まれないと到達できない場所なのだと思う。
「ミッドナイト・ラン」* ☆☆☆☆☆
(1988年 米国)
子供と鑑賞。何度観てもいい。文句なし。
「無責任清水港」☆☆☆
(1966年 日本)
植木等がすごい。ひとりでおもしろい。がに股がいい。田崎潤の侍が三十郎(三船敏郎)のパロディだと気づいて笑った。それにしてもこの時代には、まだこんなにそれっぽいロケーションがあったのだなあと思う。
「家族の肖像」☆☆☆★
(1974年 イタリア/フランス)
冒頭、教授の家に押しかけてきて無理やり住み着いてしまう一家の得体のしれない図々しさと不気味さの演出と演技がすごい。正体がわかってくるにつれ、不気味さのベールは剥がれてしまうが、そういうお話だから仕方がない。でも、この不気味なイントロダクションを延長した「銀の仮面」的なドラマ展開でも面白かっただろうと思う。ひとりで閉じこもる教授の性向も、見知らぬ他人だったはずの人間たちに愛着を覚える感覚も、なんとなくわからないでもない。
「ルートヴィヒ」(1972)と同じく、シルヴァーナ・マンガーノの下劣な品性の表出がすごい。この映画を観て初めて、ヘルムート・バーガーが真正の二枚目に見えた。特別出演のドミニク・サンダが美しかった。クラウディア・カルディナーレはそれほどでもなかったが。
「最強のふたり」☆☆☆☆☆
(2011年 フランス)
新しく調布にオープンした映画館、シアタス調布で鑑賞。あっという間の2時間。暗闇の中で映画の世界に没入し、とても心地よい時間を過ごすことができた。ドリスの人間性は、寅次郎に通じる味わいがある。ときにブラックでも心地よいユーモア。すばらしいドラマ。こんな映画があったとは。それにしてもフランス人女性は歳をとっていてもチャーミング。いかにもコメディらしい、逆手の手法が心地よく使われている場面が二箇所。
「超高速!参勤交代」☆☆☆
(2014年 日本)
ベタだが、西村雅彦の家老が笑えた。「知恵を出せ!」と「やまびこの術」が面白かった。佐々木蔵之介の居合が様になっていた。クライマックスから先がダレる。
「ブレードランナー2049」☆☆☆☆★
(2009年 米国)
新宿東宝シネマズで鑑賞。2D、字幕。公開初日に観た映画は「乱」(1985)以来か。映像、音楽、演出、空気感、小道具、風景、配役、テーマ、そして意表をついた発想のプロット。作品を構成するすべての要素が、正しく「ブレードランナー」(1982)から地続きになっているように感じられた。素晴らしい。ぞくぞくする喜びがあった。ガフやレイチェルの登場も嬉しい驚き。ヴァンゲリスを彷彿とさせる音楽、眼のアップで始まるオープニング、エルンストの絵のような旧タイレル・コーポレーションのビルと黄金色の内装、主人公であるレプリカントの最期、あちこちに前作へのオマージュがあった。映像のひとつひとつが構図に凝った美しいものであることもまた、前作に倣っている。
スキン・ジョブとさげすまれながら(差別されながら)、淡々と上司の命令に忠実に日々を過ごす、家では実体のないホログラフの女に愛情を捧げる、名前もない主人公の生がいじましく切なく哀しい。手塚治虫の「火の鳥」に出てくるロボットに感じたのと似たエモーションが湧き上がってきた。この映画のレプリカントは、差別され、迫害される存在になったという意味で、前作のより低次の作り物扱いから社会的に一歩進んだ存在になっているともいえる。
前作で、ハード・ボイルドの探偵らしく観察者(狂言回し)の立場にあったデッカードは、今作のドラマ設定によって、物語に必要不可欠なピースとして存在理由を与えられた。アナ・デ・アルマスもよかったが、前作のダリル・ハンナのようなメイクをしたマッケンジー・デイヴィスも、そして無垢な雰囲気のカーラ・ジュリもよかった。シルヴィア・フークスは、江角マキコに見えた。ドルビー・アトモスの臨場感あるサウンドがすごかった。劇中、何度か、これみよがしにSONYのロゴが表示されるのがややウザかった。
「砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード」☆☆☆
(1970年 米国)
三鷹の古本屋で見つけた本作のメイキングともいえる「ケーブル・ホーグの男たち」(マックス・イヴァンス著)を読み終えてからすぐに観た。ゆったり、のんびりした時間の流れが心地よい西部のお伽噺。暴力場面のスローモーションの対極にある、コミカルな場面の早回し・コマ送り。あまり笑えないが。ロケーションがいい。空の色がいい。「ゲッタウェイ」(1972)のラストに出てくるおじいさんの役者が駅馬車の御者役。隣に座っていたのが、マックス・イヴァンス。それらしい佇まいでよかった。その他、配役がいちいち素晴らしい。
「幕末太陽傳」* ☆☆☆☆☆
(1957年 日本)
二回目。前に観たときも面白かったが今回も面白かった。いずれまた観返したいと思うが、次はその前にまず、元ネタの落語を名人の語りで聞いてみたい。間然するところのない脚本が素晴らしい。喋りも動きも表情も、フランキー堺のキレがハンパじゃない。器用。天才を感じさせる。芦川いづみがいい。石原裕次郎だけ、演技がちょっと青い。ロケ撮影、セットがいい。特に海。冒頭の現代の品川の跨線橋は、ひょっとして「武蔵野夫人」(1951)のラストの跨線橋かもしれないと思った。
「天国と地獄」* ☆☆☆☆☆
(1963年 日本)
立川シネマシティにて鑑賞。あっという間の2時間半。もう何度も観たことある映画なのに。すべてが素晴らしい。ひとつ腑に落ちないことがあるとすれば、やっぱり、なぜ医学生がこんな犯罪に走ったのかということ。エスタブリッシュメントへの足がかりをつかんでいるともいえる医者の卵が、果たしてこんなにひねくれるだろうか。医学生が犯人という設定がドラマにとって都合よかったことはよくわかるし、希代のねじくれた雰囲気を持つ役者、山崎努が演じているがゆえにいかにも手前勝手なルサンチマンを抱きそうではあるのだが。
11月
「ザ・マジックアワー」☆☆★
(2008年 日本)
佐藤浩市の演技を掛け値なしにいいと思えたのは、これが初めてかも。どこか、わざとらしくてクサい芝居をする人だとずっと思っていたが、この映画は、それがそのまま生きる役だった。ドラマの後半は、脚本に無理がある。ウェルメイドなドラマを目指していたが、無理しすぎて失敗してしまったような感じ。
「天空の城ラピュタ」* ☆☆☆☆☆
(1986年 日本)
子供と鑑賞。もう何度観たかわからないが、相変わらず面白い。
「洲崎パラダイス赤信号」☆☆☆☆★
(1956年 日本)
ずいぶん昔、冒頭の15分くらいで観るのをやめた映画。今回は芦川いづみが観たくて観た。この映画の芦川いづみは、ホント素晴らしい。掃き溜めに鶴を絵に描いたよう。可憐で凛として、美しくてかわいらしい。映画自体もよかった。貴重な当時の風俗、下町風景や秋葉原電気街の記録映像としての価値もさることながら、それ以上に映画としての面白さに溢れていた。シニカルなリアリズムがいい。80分程度と短いところもいい。轟夕起子が「武蔵野夫人」(1951)のときからさらに太って、完全に色気とは無縁の人になっていた。
「超高速!参勤交代リターンズ」☆
(2016年 日本)
前作にはあった工夫がまったくといっていいほどない。荒唐無稽の度合いが歴史常識を激しく超えていて、いくらなんでもひどすぎやしないか。製作者の意識の低さ、センスの欠如を思う。前作で馴染のあるキャラたちと猿のけなげさに☆。
「友よ、静かに瞑れ」☆☆☆★
(1985年 日本)
クラシックで昭和なハード・ボイルドの雰囲気が懐かしい。素晴らしいロケ撮影。これだけでも価値がある。沖縄のさびれた乾いた空気。音楽もぴったり。藤竜也がカッコいい。原田芳雄もいつもの原田芳雄でいい。室田日出夫、佐藤慶、倍賞美津子、宮下順子、みんないい。リアリズムの延長にあるドラマ展開もいい。しかしアクション(格闘場面)の説得力がいまいちで、またなにしろクライマックスに至るドラマが舌足らずで無理があり、それゆえクライマックスのインパクトも説得力も弱い。同じ北方謙三原作の「逃れの街」(1983)の出来栄えには届かなかった。惜しい。
「吹けば飛ぶよな男だが」☆☆☆☆
(1968年 日本)
冒頭のイケてなさにがっかりしたが、あれよあれよという間に面白くなった。緑魔子がいい。頭の鈍さと裏腹の無垢さにリアリティがあった。五島出身のクリスチャンという設定もいい。なべおさみのチンピラ像もいい。寅さんの系譜に連なる、救いがたい愚かさ。そしてその一方のバイタリティ。驚いた。素晴らしい躍動感。なべおさみがこんな「俳優」だったとは。ミヤコ蝶々の役柄と彼女をめぐるドラマは、翌年公開の「続・男はつらいよ」(1969)そのまんま。ラストでさりげなく犬塚弘が腕を吊っているのがいい。ほか脇役もみんないい。惜しむらくは小沢昭一のナレーション(と冒頭の登場場面)。まった不要。なくても映像だけで十分成立している。仮に説明不足のところがあっても少しの継ぎ足しで十分補えたと思う。指を切って血が吹きでたり、流産して血が流れたり、「たそがれ清兵衛」(2002)のリアリズムがすでにこんなところにあった。
「007 スペクター」☆☆☆★
(2015年 イギリス/米国)
Amazon PrimeビデオをPCで鑑賞。荒唐無稽さとシリアスさのバランス、リアリズムの度合い、ストーリーの捻り具合・凝り具合やアクションのスケール感が、ちょうど「ミッション:インポッシブル」(1996)くらい(とはいえカーチェイスはどことなくはんなりしているのだが)。つまり昔の007シリーズよりも、いろいろとスケールアップしている。面白かった。ちょっと長過ぎるが。冒頭、メキシコシティの建物の屋上から屋上へと渡り歩いていくダニエル・クレイグを追って、滑らかに流れていくカメラが素晴らしい。
「ナチュラル」* ☆☆☆☆
(1984年 米国)
ロード・ショウのしばらく後、どこかの二番館で観て以来。確か冒頭の数分を見逃している。野球場面の迫力は今ひとつだが、ロバート・レッドフォードが醸し出す爽やかな雰囲気が心地いい。当時も同じ感想だったと思う。マスコット・ボーイとロバート・レッドフォードの交流がいい。マスコット・ボーイの帽子のギャグはよく覚えていた。サヨナラ・ホームランの打球がライトを直撃し、火花が飛び散る場面も記憶に残っていた。
「007 カジノ・ロワイヤル」☆☆☆☆
(2006年 イギリス/米国)
カジノと格闘をモチーフにしたオープニング・クレジットが素晴らしい。柔らかな色使いのアイデア溢れるアニメーション。歌もいい。失策でカネをなくした悪の一味のひとりがカジノで穴埋めをしようというストーリー・ラインが新鮮。悪役のキャラと俳優(マッツ・ミケルセン)がいい。眼から血の涙が出るという設定もいい。ボンド・ガールのエヴァ・グリーンがいい。メイク中の場面で見せる、厚化粧じゃない顔の方が知的で若々しくて美しい。オープニングの工事現場のチェイスがアイデアに溢れていて素晴らしい。逃げる黒人俳優の体技とバネがすごい。ダニエル・クレイグの肉体の説得力も素晴らしい。これほどスーツやディナー・ジャケット姿にプレミア感を漂わせる俳優もあまり覚えがない。シルエットがいい。新しいカクテルが生みだされるエピソードがいい。拷問方法のケレンとばかばかしさは、従来の007映画の世界観。もっともこんな下ネタはなかったと思うが。
「007 慰めの報酬」☆☆☆★
(2008年 イギリス/米国)
「007 カジノ・ロワイヤル」(2006)のストレートな続編。「007 スペクター」(2015)や「007 カジノ・ロワイヤル」に比べるとずいぶん短い。このくらいが疲れなくてちょうどいい気がする。悪役がちょっと弱い。キャラ設定も、演じる役者も。この後にさらにすごいのが出てきそうな小物感がある。「007 カジノ・ロワイヤル」を承けた、ドラマを通貫するテーマ(復讐)があって、そこにヒロインの存在が有機的に絡んでなかなか。冒頭のカーチェイスは、「007 スペクター」のはんなりしたチェイスに比べるとコンテンポラリー。
「007 スカイフォール」☆☆☆★
(2012年 イギリス/米国)
「生き残った二匹のネズミ」というドラマ設定がいい。そして一方のネズミである悪役、ハビエル・バルデムがすごくいい。母親に愛されたいと願っている子供というキャラクター。「ダークナイト」(2008)のジョーカー的なところもある(わざと捕まって脱走するところとか)。最後、Mとともに死にたがるのがいい。無精ひげを生やしたダニエル・クレイグは老けて見えた。突然出てきた軍艦島の映像に、はっとさせられた。
12月
「日本列島」☆☆☆☆☆
(1965年 日本)
「ぶれない男 熊井啓」(西村雄一郎著)を読んで以来、観たかった映画。そして芦川いづみが出ていると知って、ますます観たくて仕方がなかった映画。こんな邦画が、まだ埋もれていたのかと思った。ミステリーとしての洗練されたドラマ展開と演出、そしてドキュメンタリー・タッチの斬新なカメラワークやロケ映像、効果的な音楽と音響。とまあ、謀略史観を描いたエンターテイメントとして素晴らしい。
オープニングの燃やされるアリの群れとその下から露わになる金網が象徴する戦後日本とアメリカの関係は、時代の移り変わりの中でスタイルを変えながらも、本質はちっとも変わることなく、そのまま現在も続いていると思う。ふと「マトリックス」(1999)の世界を思い出してしまった。機械につながれ夢を見続けている人間たちに日本人の姿が重なる。
この映画の俳優はみな素晴らしい。特に主役の宇野重吉がいい。淡々とした、薄い墨汁が滲むような微かな表情やしぐさの中に万感の感情を表現してみせる。そしていうまでもなく、芦川いづみがいい。クライマックスで宇野重吉の死を知らされ茫然自失するところ、そしてジェット機の爆音で窓ガラスにぴしっとひびが入った瞬間、楳図かずおのホラーマンガのような表情で金切り声を挙げる場面のすさまじさ。ただキレイなだけの女優さんではない。
「カサンドラ・クロス」* ☆☆☆
(1976年 西ドイツ/イタリア/イギリス)
昔、テレビで観た記憶あり。腑に落ちないおかしなことがいろいろとありながらも最後まで観てしまうのは、ドラマ設定のうまさやオールスター感のあるキャスティングの華やかさがあるからだと思う。この映画に描かれるアメリカが謀略的であるのを見て、欧州の人もまた、アメリカに対して「日本列島」(1965)の主役の日本人たちと似た思いを抱いているのかもしれない、というようなことをふと思った。
「ナバロンの要塞」☆☆★
(1961年 米国)
観たことがありそうで、一度も観たことがなかった。長い。冒頭の嵐の場面の迫力はなかなかだが、現代の目で見ると、そのほかの特撮がちょっとつらい。セットであることが丸わかりなセットも興醒め。仲間が死ぬ場面の演出もちょっと下手。
「エンドレス・ポエトリー」☆☆☆☆★
(2016年 フランス/チリ/日本)
新宿シネマカリテで鑑賞。最初の数分を見損なった。生きている喜びを再確認させてくれる、元気をくれる映画だった。フェリーニと鈴木清順を混ぜたようなテイスト。監督の脳内に渦巻く抑えきれないイメージの奔流。ときどきくすっとさせられる不条理ギャグだとか、シュールな映像だとか、大女や小人やサーカスといったフリークス趣味だとか。
すべてのカットの色彩が計算し尽くされた美しさ。また伴奏が、その美しい映像の一コマ一コマに滲むエモーションを的確に際立たせていて素晴らしい。この映画のよかった場面を挙げればきりがないが、歳を経た主人公が突然現れ、若い主人公に人生の秘密を耳打ちする三つの場面には、いちいち意表を突かれた。「人生に意味なんかない。生きろ、生きろ!」こんなふうに若い頃の自分に語り掛けることができたらと痛切に思った。
前作が見たいと思い、それからこの続きが見たいと思う。ロビーに据えられた水槽の熱帯魚がまさにどくろの仮装のような白黒の縞模様で、よくこんなにぴったりの魚を見つけてきたものだと思った。
「姑獲鳥の夏」☆
(2005年 日本)
京極堂シリーズの映像化には無理がある。文字だからこそ、そして京極夏彦の饒舌なぺダンチズムを駆使した屁理屈あってこそごまかせていたリアリティのなさやバカバカしさがあられもなく露わになって、哀しいくらいに痛々しい。そもそも文字であってすら違和感を抑えきれないマンガのようなキャラクターの数々を映像にできるはずがなく、永瀬正敏やいしだあゆみのような芸達者をもってすらどうしようもない中で、それなりに重要な役を宮迫博之あたりがやっていたりするからなおさらどうしようもない。衣装や小道具、セットの汚しや作りが甘く、「衣装」や「小道具」や「セット」にしか見えない。大安売りの斜角のカメラ・アングル。安い「映像美」に、これまた安い音楽。実相寺昭雄のセンスや美学は、子供向けの「ウルトラセブン」や「ウルトラマン」の世界の中でこそ生きるものだったのだとしみじみ思う。
「魍魎の匣」☆
(2007年 日本)
まず何より中国だと丸わかりのロケーションに唖然とした。これを戦後の日本の風景だとして、観る者を納得させられると思っていたのなら、いくらなんでも鈍すぎる。また衣装などから伺える風俗も1950年代には見えない。明治か大正時代のように感じられた。その一方、俳優の演技はみな現代の日本人そのままなので、時代感が滅茶苦茶。美馬坂研究所の外観風景はなかなか感じが出ていたと思う。
「黒部の太陽」* ☆☆☆☆
(1968年 日本)
「映画「黒部の太陽」全記録」(熊井啓著)を読み終えたあと、間髪入れずBlu-rayで鑑賞。以前、NHK BSで観たのは短縮版だったことに気がついた。ドラマの厚み、そしてそこから生まれる面白さがまったく違った。主役の三船敏郎と石原裕次郎をはじめ、脇役含めて役者はみんな素晴らしい。短縮版には出てこなかった宇野重吉と寺尾聡の親子がいい。ことに宇野重吉が素晴らしい。滝沢修の関電の社長もいい。巨大企業の社長にしか見えない重厚さとふるまい、口調。加藤武も辰巳柳太郎や柳永二郎もいい。
ところどころに差し挟まれる北アルプスの空撮や風景映像も素晴らしい。破砕帯の出水の映像のスペクタクルはすごい迫力。このトンネルのスケール感は、まったくセットとは思えない。とんでもない人数の工員たちがトンネルの中に終結したクライマックスの場面の迫力もすごい。電報を受け取った直後にスピーチする三船敏郎の眼が赤いのは、前日徹夜で飲んでいたからだと本に書いてあった。役作りの凄味を思う。全編を通じ、「日本列島」(1965)と同じく、熊井啓監督の「音」(無音を含む)使いの巧みさが光る。
黒部第三発電所から黒四建設に至るプロジェクトの合理性を超えた(無視した)がむしゃらで玉砕的な博打戦法が、戦前から戦後に至る日本と日本人の在りようそのものに思えた。そしてこの映画のプロジェクト自体もまた、黒四ダム建設プロジェクトの縮図のようだった。いずれにしても、延べ人数で国民の10分の1が参加したこのような国家的イベントはもう日本ではありえないだろう。そう思うと羨ましい時代だったなとも思う。
「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」☆☆☆☆
(2016年 米国)
オープニングでスターウォーズの音楽が流れないのがちょっと残念。マッツ・ミケルセンがいい。素晴らしい存在感。エピソードIVのドラマの裏地としてその世界観に厚みを加えた、よくできたサイド・ストーリーだと思う。「スターウォーズ/フォースの覚醒」(2015)と同様、映像がすごい。この点で、過去の作品はどう逆立ちしても敵わない。スペクタクルを楽しむ映画として、これはかなり大きい。ドニー・イェンが超役得。
「スターウォーズ/フォースの覚醒」☆☆☆☆★
(2015年 米国)
やっぱり素晴らしい。映像も、過去作品へのリスペクトも、そして懐かしいキャラたちが役者を変えずに登場するのも。BB-8も最高。エピソードIVまんまといっていいストーリー・ラインも、久々のスターウォーズとして、これでよかったと思う。ラストのルーク・スカイウォーカー登場場面が生み出す次作への期待感はハンパじゃない。そしてこれを観て、すぐに次作を観ることができる、2017年12月現在の幸せ。
「スターウォーズ/最後のジェダイ」☆☆☆☆
(2017年 米国)
シアタス調布で鑑賞。オープニングのシリーズお馴染のタイトルバックと音楽に浸りながら、2年間待ちに待った喜びと期待感を噛みしめていた。なんたる幸福感。冒頭のスペース・バトルの映像とスピード感の迫力がすごい。改めて映像技術の進化を思う。
レイの両親は何者なのか?という2年引っ張った謎のオチには肩透かしを食らわされた(こんなオチなら前作で思わせぶりに描くべきではなかった)。そして同じく肩透かし感満載、スノークのあっけない最期。いったい何者だったのか。アダム・ドライバーのぬぼーっとした顔のアップはちょっと耐え難く、カイロ・レンがこれからもしシリーズを通した最大の敵のポジションに着くのだとしたら、この役者はやっぱりミスキャストかな、と思う。
ルークとチューバッカ、R2-D2、C3-PO、そしてレイアとの再会場面は、いずれもうれしかった。このときだけ、昔のルークに戻る感じの演技がよかった。クライマックスの闘いのルークが幻だったとわかったときは、なかなかのカタルシスがあった。レイアのいくらなんでもの宇宙遊泳は、その映像のイケてなさもあって失笑レベル。ローラ・ダーンがヘンな髪型で出てきたのも驚いた。愚かな提督役としてなかなかぴったりだと思ったが、愚か者の役ではなかった(でもよく考えるとやっぱり愚か者)。ベニチオ・デル・トロの一筋縄ではいかない曲者キャラはよかった。もちろん次も出るのだろう。そして整備士を演じるアジア系女優。なぜこの人なのか、マジで意味不明。
クライマックスの白い砂が剥けて赤い地肌の線が引かれていく映像には、凄愴な美しさがあった。このあたりでそろそろ終わりだなと思いながら、いつまでも終わらなければいいのに、と思いながら観ていた。
「ダ・ヴィンチ・コード」☆☆★
(2006年 米国)
エクステンデッド版を鑑賞。例によっていかにもロン・ハワードの作品らしい、平均点そこそこの味わい。ミステリーとしては突っ込みどころ満載、スリラーとしてはスリルもサスペンスも弱いが、キリスト教の歴史をめぐる「とんでも」なうんちくが楽しい。とはいえこの手の物語は活字だからごまかされるところがあって、映像にすると、いかにハリウッド映画のすごい映像と語りのワザをもってしてもキビシイところがある。トム・ハンクスとオドレイ・トトゥの間にロマンスが生まれないところがいい。
「ラヂオの時間」☆☆★
(1997年 日本)
いかにも舞台劇の映画化っぽいドラマ。特異な状況を設定し、その中でがんばってドラマを転がそうという努力のあとがよく見えるというか、それが見えてしまうところがキツいというか。ところどころの展開が、許容できる不自然さの一線を越えていてツラい。俳優が皆若い。驚くほど西村雅彦のキレがよくて素晴らしい。梅野泰靖も芸達者。鈴木京香も主婦っぽさを醸し出していていい。エンド・ロールの出演者があいうえお順で、特別出演の宮本信子、桃井かおり、渡辺謙が最後に三連発で出てくるのがなかなかよくできていると思った。
「千利休 本覚坊遺文」☆☆☆★
(1989年 日本)
鋭利な映画。観ている間、何かを突き付けられているよう。冒頭の竜安寺の石庭に雪が音もなく降る映像から本覚坊の庵を彩る四季折々の映像まで、すべてが厳しく美しい。そして音楽もそう。ドラマ展開はややわかりづらく、それでいて説明的でありすぎるようにも思える。
三船敏郎の武ばった利休は、戦国時代の茶人の姿として新鮮で、ありだと思えた。萬屋錦之助の初登場場面の貫録がすごい。そしてクライマックスのエア腹切りの迫力が、凄まじい。加藤剛の存在感もすごい。この人に認められる人間になりたいと思わせるような品と徳を漂わせている。
狭く、それでいて広がりを感じさせる茶室の場面はすべていい。「無」の掛け軸を前に、三人が額を寄せ合って真っ暗になっても話し込んでいる場面はその真骨頂。「映画の深い河」(熊井啓著)を読んで、本覚坊の庵のロケ地が奥多摩湖の岫沢付近だったと知った。いまの山のふるさと村のあたりか。そういわれると確かにそうだ。あの映像に心惹かれたのは、そこがよく知っている場所だったからかもしれない。
「剱岳 点の記」* ☆☆☆★
(2009年 日本)
大晦日に鑑賞。前日に訪れた博物館明治村のロケ地めぐりの復習。久しぶりに観たが、思ったよりよかった。なぜか、以前ほど、この映画の欠点と思うところが鼻につかなかった。記憶に新たな明治村のあちこちの建物が映画の中に認められて、この映画の映像により一層、親近感が湧いたせいかもしれない。
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管理人: mardigras

「攻殻機動隊」は私も大好きな作品です。劇場版もいくつか見たけど、どれがどの事件か思い出せません。ハリウッドリメイクも楽しめましたか。
未見ですが素子さんは日本人でやっても雰囲気でないから、そうしなくて良かったと思ってます。
「あの子を探して」もいい作品ですよね。主人公の心情の変化がひしひし伝わってきて、利己的だったのが苦労するにしたがって少年のことが心配でたまらなくなっていくところにウルウルきました。高倉健も好きな作品だったのか~。
「最強のふたり」も噂通り面白かったです。まさに”ブラックでも心地よいユーモア”が溢れてましたね。ドリスのユーモアのセンスを1%でもいいから分けてほしい!
ぐいぐい引き込まれて、かけがえのない友情が育まれていく様子に感動しました。
では、今年もお互いのペースで映画を楽しみましょう♪