「男はつらいよ ぼくの伯父さん」を訪ねて

「男はつらいよ ぼくの伯父さん」のイラスト(吉岡秀隆)

人である寅さんが主役の「男はつらいよ」シリーズは、全48作いずれもどこかに色濃く旅情を漂わせた作品ばかりでありながら、いわゆるロードムービーと呼べるものはほとんどありません。基本的なドラマのかたちとして寅さんの故郷である柴又、そして寅さんが訪れる旅先という"点"で起きる出来事に眼目が置かれているからですが、それでも中には"点"と"点"を結ぶ"線"のドラマを描いたロードムービー、あるいはその味わいを持ったものがいくつかあります。1989年公開の第42作「男はつらいよ ぼくの伯父さん」もまた、そんな作品のひとつ。寅さんの甥っ子である満男が転校した高校の後輩の女の子を訪ねて東京から佐賀まで遙々バイクで旅する情景と、旅を通じた成長が描かれています。

本作は、当時、既に還暦を過ぎていた渥美清演じる寅さんから、若き吉岡秀隆くん演じる満男の恋愛模様にドラマのフォーカスがシフトする、シリーズの大きな転機となった作品でもあります。公開時に初めて観たときは、青春真っただ中のナマナマしい悩みのあれこれに押し潰されそうになっている、まるで「北の国から」の純が憑依したかのような満男が痛々しく、作品世界とミスマッチにも思えたそのスーパーリアリズムに居心地の悪さを感じてしまったものですが、それが今この歳になって観ると、決して悪くない。満男の愚かしくて危なっかしくてこっ恥ずかしい言動のひとつひとつが微笑ましいというか、そうそうこんな感じでみんな悩んで大きくなるんだよな、と余裕をもって観られるというか。要するに、この作品の中で満男を少し離れたところから温かい目で見守る柴又商店街の大人たちと同じ目線で眺めてしまっているわけですが、初めて観たときは自分も迷える若者のひとりとして、浪人生の満男の閉塞感や焦燥感に苛まれた無様でみっともない姿がとてもひとごととは思えなかったのでしょう。

さて、好きな女の子に対する思いが高じて九州くんだりまでバイクをすっ飛ばし、ようやく一目会えたのはいいけれど思いを交わした仲じゃなし、日も暮れてこれからどうするか、無計画で一夜の宿のあてすらなかった満男は、右も左もわからぬ旅先の心細さと惨めさが頂点に達したかのタイミングで、ばったり寅さんと出遭います。こんなシチュエーションでめぐりあえてこれほどほっとする人物はいない、ということを私たち観客もこれまでの作品を通じて身に沁みるほどよくわかっているので、この悩める満男が旅先で寅さんに偶然出遭うという展開には、(ご都合主義の極みといえども)鉄板のカタルシスがあって、さもありなん、この後の作品でも何度か繰り返されていくことになります。

――とまあ、作品の感想めいたことを書き出すとキリがなくなるのでこのへんにして、さて昨年の11月下旬、この映画の舞台となった佐賀を訪れてきました。正確には佐賀だけでなく、九州のあちらこちらを二週間かけて旅してまいりました。バイクとクルマの違いはありますが、満男と同じく東京から高速道路を西へ西へとひた走り、車中泊であちこちまわりながら、本作はもとよりいろいろな映画のロケ地に立ち寄ってきましたので(前回記事の「病院坂の首縊りの家」もそのひとつ)、これから何度かに分けて記事にしようと思います。


関門橋

州を訪れるのは実に三十数年ぶり。長年の夢だった冬の九州でしか見られない野鳥を観ようというのがそもそもの目的だったのですが、どうせ行くなら山も登ろう、ついでに映画のロケ地も訪れよう、なんなら(九州に数多くある)装飾古墳も見て回ろう、とどんどん欲が出て、なかなかあわただしい旅行となりました。

クルマで九州へ行こうとすれば、どうしたって下関から門司まで、関門海峡に架かる関門橋を渡ることになります。この映画でも、満男が関門橋をバイクで走り抜ける場面がありますが、その前にバイクで転倒したところを救けてくれた親切なオジさんとホテルに投宿し、相部屋で寝ていたところを襲われそうになって慌てて逃げ出してきたという設定。この展開を知ったうえで改めて観ると、おじさんに扮した笹野高史が登場直後からいろいろ細かく演技していたことに気づいてなかなか見ごたえあり。

関門橋
「あー気持ちわりい。あーもう!気持ちわりい!!」

さて私のほうはといえば、東京を出て二日目の夕方に下関に辿り着き、高倉健の遺作「あなたへ」(2012)のロケ地でもある唐戸市場に立ち寄ってふぐを食べているうちに日が暮れて、関門海峡を渡るころにはすっかり夜になってしまいました。写真は帰路に撮ったものですが、映画ではちょうどこのアングルで満男のバイクが走ってくる様子が映っています。ちなみに橋を渡った先の門司港でも「あなたへ」の撮影が行われていますが、この旅行ではメインのロケ地である長崎の平戸に行く時間が取れそうになかったため、行きも帰りも門司はスルー。車中泊そのものを描いたこの映画のロケ地めぐりは、いずれまたじっくりやろうと思っています。


吉野ケ里遺跡

州上陸初日の夜は、門司からほど近い、九州自動車道の古志パーキングエリアで車中泊。前夜の宿泊地、琵琶湖の畔がやたらと冷え込んだのに比べ、こちらはまだ毛布なしでも大丈夫なくらいでした。翌日は、朝いちばんで北九州市と福岡市の中間にある宮若市の竹原古墳を見学。すぐ目の前を九州新幹線が走り抜ける田園地帯の一角にある竹原古墳は、レプリカではなくいつでも本物の古墳内部を観せてもらえるありがたい装飾古墳です。装飾古墳とは、古墳内部の石室や石棺に絵画や文様が描かれていたり彫刻や線刻が施されていたりする、いっぷう変わった古墳のことです。古墳に装飾が施されるようになったのは5世紀からで、最初は九州中西部の有明海東岸から始まり、7世紀にかけて近畿、関東、東北へ広がっていったと考えられています。日本全国におよそ660基ある装飾古墳のうち実に386基が九州にあり、さらにその多くが福岡・熊本に集中しています。もっとも有名な装飾古墳は奈良の高松塚古墳やキトラ古墳ではないかと思いますが、より古い時代の九州の装飾古墳の絵柄や文様はあんな洗練されたものではなく、もっと稚拙で原始的なものばかり。いったい何が描かれているのかよくわからないものも多く、それだけに想像力を掻き立てずにはいられない、古代の謎とロマンを感じさせる存在です。もう二十年ほど前、この装飾古墳をネタに使った諸星大二郎のマンガを読んで、いつか九州を訪れる機会があったらきっと見てまわろうと思っていたのでした。

とまあ装飾古墳の話題はそれこそ関係ないのでここまでにして、竹原古墳のあとは福岡市内にクルマを走らせ、潮が引いた和白干潟で3時間ほどバードウォッチング。ここでは冬の九州北部でしか見ることのできないツクシガモや、これもほかではなかなかお目にかかれないクロツラヘラサギといった冬の干潟の探鳥を堪能、、、とこれまたロケ地めぐりと関係ないので飛ばします。ちなみに和白干潟に隣接する香椎の浜と西鉄香椎駅は松本清張のミステリ「点と線」の舞台であり、1958年公開の映画もここで撮影されていたことをNHKの「日本風土記 松本清張鉄道の旅」を観て知っていたのですが、当時の面影がまったく残っていないようだったのでパスしました。

そうしてクルマを南へ走らせること60km、次に訪れたのがこの映画のロケ地のひとつ、県境を越えて佐賀県に入ったところにある吉野ケ里遺跡。少し遠回りすれば、満男がバイクで事故った場面の撮影された峠とそのあと一休みする喫茶店があることはわかっていたのですが(映画では、事故は関門海峡を渡る前の出来事として描かれている)、吉野ケ里遺跡の閉園時間が迫っていたため、泣く泣くパスすることにしました。

弥生時代の大環壕集落跡に竪穴式の住居群や巨大な物見櫓を復元し、公園として整備した吉野ケ里遺跡では、デート中の満男と満男が思いを寄せる後輩の女の子、泉(後藤久美子)が寅さんと出くわす場面が撮影されています。寅さんは、泉が身を寄せている叔母さん(檀ふみ)の舅(今福将雄)に気に入られ、舅と仲間の郷土史会の老人たちのお供をして遺跡見学にやってきたという設定。朝別れたばかりの満男と寅さんが近場でばったり顔を合わせるという展開は、ちょうどこの時期に大々的な発掘が開始され、全国的に脚光を浴びていた吉野ケ里遺跡をせっかくだからシナリオに組み込んだ、という印象ではあります。

吉野ケ里遺跡01
「俺の東京の実家なンてのはね、100年くらいっきゃ経ってないのにもう半分壊れかかっちゃってるからね。そこへいきゃあこの建物は大変なもンだ。2000年でしょ?まるで新築同然だもンね、こうやって見ると」

吉野ケ里遺跡02
「おっ、満男。何もない。なンにもないよ」

弥生人の復元住居から出てきた寅さんがこれから中に入ろうとしていた満男に手を振りながら言うセリフは、「幸せの黄色いハンカチ」(1977)で、朱美(桃井かおり)とともに小清水原生花園を訪れた粗忽で軽薄な青年、欽ちゃん(武田鉄矢)がすれ違う観光客に言い放つ余計なひとことのリフレインでしょう。

寅さんの言う通り、確かに復元住居の中に入ったって何もないのですが、吉野ケ里遺跡公園全体のインパクトはなかなかのものでした。環状集落を丸ごと復元したスケールの大きさが場のリアリティを生み、弥生時代から変わらないであろう山々を背景にした見通しのいい風景の中、人影の消えた平日の閉園間際というタイミングともあいまって、もの陰から今にも弥生人が姿を現しそうな雰囲気がありました。

映画ではこのあと、満男と泉がいかにも「男はつらいよ」の世界らしい、鄙びた風景が拡がる東畑瀬という山間の村を訪れますが、残念ながらこの集落は、2005年に着工し2012年に完成した嘉瀬川ダムの底。行きたくても行きようがありませんでした。こうして時代の流れのなかでどんどん失われていく、失われてはじめてその価値に気づくような、かつて日本のいたるところにあった、とりたてて名もない、しかし無性に懐かしさを感じさせる風景の数々が、その土地の持つ最良の空気をとらえた美しく情緒てんめんたる映像として記録されているところが、今もこうして「男はつらいよ」シリーズを繰り返し観てしまう大きな理由のひとつとなっています。

さて、この日は吉野ケ里遺跡の近くの温泉施設で汗を流し、九州に来るまでその存在をまったく知らなかった焼きそばチェーン「想夫恋」でぱりぱりしたソース焼きそばを味わい、佐賀市内をいったん素通りして、この映画の主要ロケ地の一つ、小城市にほど近い有明海の北端にある道の駅しろいしで車中泊。私のクルマはステーションワゴンなのですが、後部座席を倒すとぎりぎり真っすぐになって寝られるスペースが確保できて、ここに登山のときに使うテントマットやらシュラフやらランタンやらを持ち込んで、すべての窓それぞれのサイズに合わせて作られた特製の断熱マットで覆うと秘密基地みたいになって、車中泊が楽しくて仕方がない。コンビニで買ったワインをちびちびやりながら、眠りにつきました。


小城高校

振り返って見ると、佐賀県は九州のほかのエリアに比べて海抜の低い、のっぺり平らな、どこか水の匂いがする場所でした。記憶の中の馴染みのある風景でいえば、一時期釣りに通い詰めていた秋田の八郎潟がそれに近い。広い空の続く、どこまでも平坦で坂のない田園風景の中をクルマを走らせる気分は、要するに干拓地特有の味わいなのかもしれません。

そんな平らな道を朝いちばんでひた走り、小城市内へ。通学時間にまだ間があるうちに、まずは泉の通っていた高校に立ち寄りました。泉は、両親が離婚して母親(夏木マリ)と名古屋に引っ越したのち、母親と折り合いが悪くなって家を出て、佐賀に住む叔母の家に寄宿しているという設定。終幕近く、佐賀を去る前に寅さんが学校に立ち寄り、なにかとつらい思いをしている泉をそれとなく励まします。二人が立ち話していた裏門の風景は、ほぼ映画当時のままでした。

小城高校
「会うは別れのはじめと言ってね。でも俺は旅人だから。一年中旅してンだ。うん、また顔見にくるよ、な。むはは、俺が顔見に来てもしょうがねえか!」


須賀神社

いて高校から1.5kmほど北にある須賀神社へ。ここは映画のエンディングで、初詣の参拝客を目当てに寅さんとテキヤ仲間のポンシュウ(関敬六)が長い石段の途中でバイをしていた神社(どうやら寅さんは小城を去ってすぐにまた戻ってきたようです)。急傾斜の階段が天に向かって延びているさまは、映画の画面と同様、実際にこの目で見てもなかなかの迫力で、てっぺんまで登って息が切れそうになりました。

須賀神社01
「お兄さん、お兄さん。心配ごとがある。青い顔してる。受験生だろ。手相観てやるからちょっと手出しなさい、ね。行っちゃうの?あとで大変な後悔をしますよ」

寅さんの易断が参拝客にまったく相手にされない一方で、杖をレンタルして大繁盛するポンシュウ。二人は石段の途中に立つ鳥居の左右にわかれて店を開いていました。

須賀神社02
「ポンシュウ、お前今日バカに調子いいじゃねェかよ」


小城駅

た道を引き返し、長崎本線の久保田から西唐津に延びるJR唐津線の無人駅、小城駅へ。時刻は通学時間帯に差し掛かっていて、駅前は折しも到着した電車から吐き出された高校生の集団でごった返していましたが、横断歩道が青に変わってしばらくすると、まるで畑からスズメの大群がさーっとどこかへ消えるみたいに人っ子一人いなくなりました。小城駅では、泉と別れたあとで寅さんが柴又のとらやに電話する場面が撮影されています。満男は既に柴又に帰り着いているという設定で、電話越しに寅さんと短い会話を交わします。2015年に改修されたというこぎれいな駅舎に三十数年前の面影はなく、当然ながら寅さんが電話していた赤電話もありませんでした。

小城駅01
「旅をすれば、人間だれでも賢くなる。ま、中にはそうじゃねえ奴もいるけどね」(2023年11月撮影)

改札を抜けてホームに立ってみると、こちらのつくりは映画当時のまま。トランク片手に寒そうに襟を立てた寅さんが、地べたに座った高校生に何か話しかけている引きの画面の面影が残っていました。

小城駅02
「どうもありがとうございました。伯父さんの老後はぼくが面倒みますから」

もう10年くらい前の話ですが、ここからほんの25kmほど西にある武雄市の武雄市図書館に併設されたTSUTAYAで、私の描いた拙イラストがポップに使われていたことがあります。ここまで来たんだもの、せっかくだから行ってみようか、と一瞬迷いましたが、このあとの予定を考え、結局やめました。武雄市図書館はいずれまた、「あなたへ」のロケ地めぐりをするときにでも寄ろうと思います。


千代雀酒造

いうわけで、次はいよいよこの映画のロケ地めぐりのハイライト、小城市の東端にある泉の叔母さんの家へ。

佐賀に着いた満男は、折しも秋祭の真っ最中だった佐賀市内の松原神社の脇を通り、秋晴れの空をバックに嘉瀬川の河川敷に浮かぶ色とりどりの熱気球を眺めながら、川沿いの道を三日月町(2005年に隣町と合併して小城市に)へと向かいます。熱気球の競技大会が晩秋の佐賀の風物詩だったというのはあとから調べて初めて知ったことですが、私が訪れるほんの三週間ほど前に大会が開催されていたようで、ちょっと惜しいことをしました。

さて、三日月町に辿り着いた満男は嘉瀬川べりの神社の前で道を尋ね、ほど近くにある泉の家を訪ねます。そうして家の前まで来たはいいけれど、気後れしてうろうろしているところにちょうど泉が学校から帰ってきて――という展開で二人は顔を合わせ、その後、この嘉瀬川の土手と神社と泉の家に擬された千代雀酒造(2015年に廃業)の分家の屋敷は、映画の中で幾たびか登場することになります。

小城から国道34号を佐賀市内方面に向かい、嘉瀬川の手前で左折すると、そこには映画で見慣れた風景がありました。嘉瀬川の堤が工事中だったのがやや興醒めでしたが、草の茂った土手も千代雀酒造の瓦屋根の大きな古い建物も神社の鳥居も三十四年前の映画とほとんど変わらぬ面影をとどめていて、すっかり嬉しくなりました。

千代雀酒造周辺01
「どうして!?一昨日手紙出したんだけど、それ見て来たんじゃないでしょ。どうしてここがわかったんですか?」

満男と泉が腰をおろして夕暮れまで話し込む土手から見た風景。千代雀酒造の敷地には、映画にも映っていたレンガ造りの煙突が今も残っていました。

千代雀酒造周辺02
「あの、本当に泊まるところあるの?もしないんだったらおばさんに頼んで...」

はるばる東京からバイクで年ごろの女の子をアポなしで訪ねてきた片思いの浪人生、とまあ十重二十重に立場のない満男はさすがに泊めてくれなどと図々しいことは言えず、町に出て商人宿を見つけたものの、あいにく部屋は塞がっていて、文字通り八方塞がりになりかけたところを親切にも先客が相部屋を承知してくれて、前夜の経験から見知らぬおじさんに警戒心を滲ませながらもほっと一息、と思ったらそれが寅さんだった――というわけで、ここまでの重苦しい空気が一気にはじけて軽くなるのがまるで目に見えるかのよう、というのは既に書きました。そして翌日、満男は面倒くさがる寅さんを連れて再び泉の家を訪れます。

千代雀酒造周辺03
「まったく。オンナと会うのにな、伯父さんを付き添いに連れてくる奴なんていねえぞ」

寅さんはぶつくさ言いますが、第29作「男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋」(1982)では逆に嫌がる満男を寅さんが無理矢理デートに付き添わせているので、おあいこといったところでしょうか(ちなみにこの作品が、吉岡秀隆くんの「男はつらいよ」デビュー作)。

泉の家がある路地の入口にあった建物は取り壊され、更地になっていました。ここでいいのかと迷いましたが、路地の奥まで歩いて振り返ってみれば、泉の家の生け垣や道路の向こう側の建物は当時そのままで、ここがロケ地で間違いないことがわかりました。

さて、こうして満男とともに泉の家を訪れた寅さんは、泉の叔母の舅にいたく気に入られ、晩飯はおろか泊めてもらうことになるのですが、この辺りの展開はやや強引で無理がある感じ。ここで登場する泉の叔母さんが今回のマドンナで、演じているのは第十八作「男はつらいよ 寅次郎純情詩集」(1976)以来の檀ふみ。マドンナとはいっても、もはや寅さんとはほんの申し訳程度の絡みしかありません。

この日、寅さんと満男たちは別々に出掛け、吉野ケ里遺跡でばったり出会うのは先に書いた通り。満男のことを快く思っていない泉の叔父さん(尾藤イサオ)の目をごまかすためか、満男と泉は神社の境内で待ち合わせます。

千代雀酒造周辺04
「おばさんに借りたの、このヘルメット。おじさんには内緒だって」

この日の夜、帰宅が遅くなってしまった二人は叔父さんから叱責され、満男は浪人生であるにもかかわらず九州くんだりまで女の子に会いに来たことに対して痛烈な嫌味を言われます。痛いところを突かれた満男は傷つき、挙句に泉とも口論になり、おまけに最後に泉に口づけしようとしてしくじって、こっ恥ずかしさにまみれながら佐賀をあとにします。一夜明けて事の顛末を知った寅さんは、満男の行動をなじる叔父に向かってこう言います。

「私は、甥の満男は間違ったことをしてないと思います。慣れない土地へ来て、寂しい思いをしているお嬢さんを慰めようと、両親にも内緒ではるばるオートバイでやってきた満男を、私はむしろよくやったと褒めてやりたいと思います」

初めて観たときはまず間違いなく、この寅さんの一言に共感を覚えていたはずですが、今となっては(言い方はともかく)叔父さんの"思想"にも一理あるというか。確かに年ごろの娘を預かる高校教師の叔父さんの立場からすれば、満男は招かれざる迷惑な客そのものだったでしょう。


松原神社

ケ地めぐりの最後の訪問先は、佐賀市内にある鍋島藩の藩祖を祭った松原神社。秋祭の人出で賑わう神社のまわりに屋台がずらりと立ち並び、その中に寅さんとポンシュウの姿もあります。寅さんが店を出していた場所は下の写真の鳥居の脇。寅さんは、キュウシュウというあだ名の旧知のテキヤ仲間を見つけて声を掛けます。

松原神社01
「ああ、寅か。珍しかねェ」

なにせ大きな鳥居というランドマークがあるので、現地に行けば撮影場所はすぐにわかるとタカをくくっていて、実際に鳥居はすぐに見つかったのですが、しかしホントにここなのか?と鳥居の前を何度も行ったり来たりしてしまいました。なぜなら周囲の建物がところろどころ取り壊されて更地が目立ち、空が広くなって、祭礼で賑わう映画の中の景色とあまりに異なって見えたためです。三日月町のロケ地でもそうでしたが、建物がなくなると途端に風景は変わってしまうものです。

さて、寅さんがキュウシュウに仲間の消息を尋ねると、死んだという返事。このあたりのテキヤ稼業の行く末が一つのテーマとなった作品もいくつかありましたが、こんな感じで出がらし的に軽いネタとして消費されているところも、先のマドンナとのやり取りに通じるものがあります。

松原神社02
「ほらみろお前。酒なんかやめたってダメなンだよ、死ぬときゃ死ンじゃうんだから。一杯飲も飲も。な」

商売のかたわら酒を酌み交わす寅さんとポンシュウの前を、佐賀にやって来た満男がバイクで通り過ぎ、角を曲がって画面の外へと消えていくのが上の場所。神社のまわりをぐるっと取り囲んでいるお堀は、さすがに映画当時のままでした。

というわけで、「男はつらいよ ぼくの伯父さん」のロケ地めぐりはこれにて終了。この日はこのあとすぐ近くにある野村芳太郎監督の「張込み」(1958)のロケ地を訪れ、それから熊本の荒尾干潟に足を伸ばしてバードウォッチングして、さらに取って返して柳川に行き大林宣彦監督の「廃市」(1983)のロケ地めぐり、と盛りだくさんだったのですが、これらの映画についてはまた改めて記事にしようと思います。



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