妄想的映画レビュー: 「ビリー・ワイルダーかと思った」篇 ブ ログを始めて2ヶ月以上が過ぎ、これまでに紹介した映画の数も早26本...私にとって(今の気分で)ベストと思う作品を順番に紹介しているのですが、そのリストにあらためて目をやってみると、う~ん、なんだかわざわざ紹介するまでもなく、誰もが知っている有名な作品ばかりな気がする...そこでふと思いつき、アカデミー作品賞を受賞した作品の数を数えてみると...なんと、26本中10本もあるではありませんか!さらにカンヌのパルム・ドール受賞作品も3本あったりして、こうなるともう、笑っちゃうくらいのメジャー指向に、なんだ、オレってかなりど真ん中好きだったんだな、と、しみじみ感じ入ってしまったのでした(今ごろ気づいた)。といっても、好きなものは好きなんだからしようがない...ということで、今回も思い切りど真ん中。アクション・アドベンチャーの定番、「ダイ・ハード」 (1988)の紹介です。この映画の一目瞭然の面白さ、そしてアクションとしていかにエポック・メーキングなものだったのかをいまさら語ってどうするんだ、と考えると、キー・ボードを打つ手も思わず鈍りがちになるのですが、しかし私だって語りたい、ということで... * * * と、ここまで書いた私は、ダメだダメだとつぶやき、Deleteキーを押し続け、すべての文字を削除した。 * * * ブログを始めて2ヶ月以上が過ぎ、これまでに紹介した映画の数も早26本...腰痛の手術以来、しばらくまともに身体を動かせないこともあって、暇つぶしに始めたブログだったはずが、いつのまにか、ブログが生活の中心になってしまったような日々...なんだかんだで、自分の考えていることを表現してみるというのは楽しいもので、ふと気づけば毎日、PCを前にして、あれやこれやと記事を書いたりイラストを描いたりする時間がかなりの長さになってしまっている... まあ、もともと暇つぶしで始めたことなので、それはそれでいい。しかし、ここのところなぜか、すでにあちこちで語られつくしている映画について今さら語ってどうする?という思いが心に芽生えてきた。初めのころはそんなこと考えもせず、好きな映画について勢いで書いていたものだが...しかし、どれもこれも、よく考えてみれば、映画好きといわれる人ならみな観ているであろう有名な作品ばかり... 試しに、自分がこれまでに取り上げた映画をネットで検索してみると、もうあるわあるわ、同じ映画を紹介しているサイトやブログが山のようにひっかかってくる。探せば探すほど、私が書いたのと似たような意見や感想もあちこちに書かれていたりする。いま、こうして書こうとしている「ダイ・ハード」についても同じように検索してみた。そうすると、思ったとおり、もういくらであるのだ、私が書こうと思ったようなことを書いたものが。とはいっても、そこで竦んでしまったら、何も書くことができなくなってしまう... とにかく、書き始めてみればなんとかなるかもしれない...そう思ってキー・ボードをたたき始めたのだが...しかしやっぱりうまくいかない。「ダイ・ハード」みたいな、面白さが一目瞭然の作品をいまさら褒めあげて、いったい何になる?という思いがこみ上げてくる... * * *チチチチチッ シジュウカラの可愛らしい鳴き声に、私はハッと我に返った。窓の外を小鳥が横切っていく。空を見上げれば、冬晴れのいい天気だ。私はため息をつき、書きかけの記事をセーブしてPCを閉じると、玄関に立てかけてある杖を手にして散歩に出た。ipodで好きな音楽を聴きながら、1時間ほど、近所の公園を散歩するのが、リハビリを兼ねた今の私の日課だ。昨年、ひどい腰痛を経験して以来、右足の神経が足の先まで傷ついてしまい、筋力の低下ともあいまって、足先に力が入らなくなってしまっている。幸い手術がうまくいき、腰の痛みは消えたものの、足首の力は戻らないままだ。医者には、気長にリハビリするしかないと言われている。しかし術後すでに2ヶ月、はじめのころに比べれば、頼りなかった足もかなりしっかりしてきた。 ブログをはじめてからは、散歩しながら考えることも、ブログのことばかりである。別に仕事でもなんでもないのに、本当にご苦労なことだ。私はひとり苦笑し、「ダイ・ハード」の記事の続きに思いをめぐらせながら、上水沿いの道をいつもの公園に向かってゆっくりと歩を進めた。 しかし、いったい何を書けばいいのか...とりあえず、書き始めるのがむずかしい、というところまで書いてはみたが、さて、この先をどうするか...ほかの人が書いてることなど気にせず、これまでと同じように、しれっと書いてしまうか、それともあの映画にまつわる、何か個人的な思い出でも探して書いてみるか...Think!, think!! (考えろ、考えるんだ!) 「ダイ・ハード」で、ブルース・ウィリス演じるマクレーン刑事が、孤立無援のハイテクビルの中で、絶体絶命の苦境に立たされるたびにつぶやくセリフだ。彼はそうして自分の動転する気持ちを静めながら、周囲を冷静に見つめて、事態を打開する次の一手を探すのだ。この映画を観て以来、私自身、何か考え事に詰まると、そう心の中でつぶやく癖がついてしまった...それで必ずしもいい考えが浮かぶわけではないが、そうつぶやくことで、かなり冷静な気持ちになれる。仕事だけでなく、釣りに出かけて魚がどこにいるかさっぱりわからくなるくらいにアタリがなくなったときも、私はよくそう口に出してみる。そうして心を静め、次の一手を冷静に考えるのだ。たんなる偶然かもしれないが、それで何かがうまくいくときもあったりする。 ...この映画が日本で公開されたのは1989年、もう20年も前のことだ。封切り時ではなく数ヶ月遅れで、友人と、二番館の三軒茶屋シネマで観た。併映は確か、「コットン・クラブ」 (1984)。「コットン・クラブ」というのはなぜか縁のある映画で、わざわざ封切りで観にいったあとに、この「ダイ・ハード」を含め、何かの併映で三度もぶつかったことがある。当時はがつがつしていたので、そのたびに、律儀に観たものだ。グレゴリー・ハインズのタップは本当に素晴らしかった。そういえばニューヨークに旅行したとき、ハインズが主演した"Jerry’s Last Jam" というミュージカルを、ブロード・ウェーに観にいったっけ... * * *ギーッ!! 冬枯れの桜並木のどこかで、ヒヨドリの鋭い鳴き声が響くのを耳にして、私はハッと我に返った。「ダイ・ハード」のことを考えるつもりが、「コットン・クラブ」のことを考えている...違う、「ダイ・ハード」のことを考えなくては...Think!, think!! (考えろ、考えるんだ!) 思えば、この映画もずいぶん繰り返し観たものだ。ギャグ紙一重のアクションも最高だが、なんといっても、あのよくできたストーリー...まさに、ビリー・ワイルダーがアクション映画を撮ったらこんな感じだろうというような、伏線に次ぐ伏線と小道具を活かしまくった脚本。伏線がびしびしと決まっていく快感で、はじめて観たときも、スクリーンに釘付けになってしまったっけ... 三軒茶屋シネマか...なんだかずいぶんと懐かしい。最後に訪れたのはいつのことだろう。ロード・ショウ落ちの映画が数ヶ月遅れでかかるあの映画館に、昔はよくでかけたものだった。映画館の屋上にあったバッティング・センターは、いまもまだあるのだろうか..ここで映画を観た帰りには必ずといっていいほど、バッティング・センターに立ち寄って、無駄に青春の汗を流したものだった...そういえば大昔、ぜんぜん行動範囲ではない立川にあるバッティング・センターにたまたま立ち寄り、ホームランを打って壁に名前が貼りだされたことがあった。確か、ネットに的があって、そこに打球が当たると"ホームラン"扱いで、タダ券をくれたのだったっけ...壁をよく見たら、ずらっと貼り出された名前の中に、やはりぜんぜん立川が行動範囲ではない弟の名前があるのを見つけて、大笑いしてしまったな... * * *バシャッ!! 池で大きな鯉の跳ねる音がして、私はハッと我に返った。考えごとをしているうちに、いつの間にか公園に着いていたようだ。「ダイ・ハード」のことを考えるつもりが、バッティング・センターのことを考えている...違う、「ダイ・ハード」のことを考えなくては...私は池のほとりにあるあずまやのベンチに腰掛けると、陽だまりに並んだ杭の上に器用に乗っかり、日光浴している亀たちに目をやった。いや、しばらく考えごとをするのをやめてボーっとすることにしよう。ブログのことばかり考え続けていたら、血圧が上がってしまう... * * *ガシャン!! ガラスの砕ける音がして、私はハッと我に返った。どうやら厨房の方で、ウェイトレスがコップを床に落としたものらしい。 私は白昼夢から醒めて、目の前に座っている会社の同僚のPに目を向けた。どうやら、ちょうど、読み終わったところらしい...Pは、私がプリント・アウトしてきた書きかけのブログ原稿を、コーヒー・テーブルの上に放るようにして置くと言った。 「なんだこれ、今回はぜんぜん、映画紹介じゃないじゃん」 テーブルに置かれた原稿の冒頭が目に入る。 “ブログを始めて2ヶ月以上が過ぎ、これまでに紹介した映画の数も早26本...腰痛の手術以来、しばらくまともに身体を動かせないこともあって、暇つぶしに始めたブログだったはずが、いつのまにか、ブログが生活の中心になってしまったような日々...” 私は、コーヒー・カップを握った自分の手元に目を落としながら、言い訳めいたことを口にした。 「そう、そのとおり、映画紹介じゃない...実は、そこに書いたとおりなんだ。映画紹介のブログを始めたはいいが、ここのところ、ちょっと映画紹介を続けるのが空しくなってきたというか、ちょっと気が引けてきちゃったというか。で、映画紹介のブログはここらへんでやめて、小説でも書いてみようかと思ってね...ブログで何を書いたらいいのか悩んでる男を主人公にして、とりあえず出だしを書いてみたんで、どんなものか、ちょっと感想を聞いてみたいと思ってさ」 Pは会社の同じ部署にいる同僚で、私のブログ仲間でもある。ブログをはじめたのも、そもそも彼がやっているのを見て、自分もやってみたいと思ったのがきっかけだ。元来引っ込み思案の性格で、匿名でも自分の考えを表立って表現することが苦手な私は、ブログをはじめて以来、昼休みになるとよくこうして、ブログ歴3年のベテランの彼に、意見を聞いたりしている。Pは目の前のコーヒーを一口すするとタバコに火をつけた。 「...あのね、ブログっていうのは、ほかの人が何書いてようと気にすることなんかないんだよ。自分の日記や記録みたいなものなんだから、思っていることを好きに書けばいいんだ。深く考えるなよ。小説なんか書かなくても、いまのままで続ければいいじゃん。とりあえず、1年くらいはさ」 私は書きかけのブログ小説を遠まわしに否定された気がして、黙りこんだ。 「書くことがないと思ったら、イラストだけでいいんじゃないか?仕事じゃないんだから、なにも悩んでまで書くことはないんだよ...」 私はぬるくなったコーヒーに口をつけた。Pの言うことが正しいのかもしれない...だいたい私は、何かを始めると夢中になりすぎるところがある。そのくせ、しばらく経つと憑き物が落ちたかのように、ふっと熱が冷めてしまうのだ。「ダイ・ハード」について書くことがないなんて言いながら、要するに、映画紹介のブログを続けるのが面倒になってきただけのことかもしれない。 これまでに書いてきた映画のことを考えれば、「ダイ・ハード」についてだって書くことはいっぱいある。伏線の張り方がいかに素晴らしいかをひとつひとつ挙げていったっていいし、マクレーン刑事のキャラクターが、ヒーローモノの主人公としていかに新しいものだったかを書いたっていい。アラン・リックマン演じる敵役の癇の強そうなインテリ風の役作りもよかったし、それにこの映画、会話やセリフもかなりよくできている。「アレキサンダー大王はインドまで来て泣いた。もう征服する土地がないと」 ... 確か、リックマンがジャパン・マネーを皮肉ったセリフだ。ほかにも洒落たのがたくさんあった。それをひとつひとつ書いたっていい。そう、これまでやってきたのと同じように書けばいいじゃないか...Pの言うとおりだ。やっぱり小説はボツだ。これまでと同じように「ダイ・ハード」の紹介を書いて、そしてイラストを載っけよう...私は急に目の前の霧が晴れたような気がして、冒頭のひと段落に思いをめぐらせた。そうだ、こんな感じでどうだろう... “ブログを始めて2ヶ月以上が過ぎ、これまでに紹介した映画の数も早26本...私にとって(今の気分で)ベストと思う作品を順番に紹介していっているのですが、そのリストにあらためて目をやってみると、う~ん、なんだかわざわざ紹介しなくても、誰でも知っている有名な作品ばかりの気がする...そこでふと思いつき、アカデミー作品賞を受賞した作品の数を数えてみると...なんと、26本中10本もあるではありませんか!...” * * *シャーッ!! カーテンの引かれる音がして、私はハッと我に返った。看護師だった。気がつけば、いつの間にか夜明けだ。血圧を測る時間になっていた。私は朝の挨拶をすると、右腕の袖をまくり、看護師に差し出した。 「お変わりありませんか?」 そう言いながら、看護師が手際よく、私の腕に血圧計を巻いていく。まさか、一晩中起きてました、とは言えない。私はあいまいに笑って頷いた。 入院して早くも2週間が経っていた。右足に痺れが残っているが、幸い手術はうまくいった。この調子なら、あと1週間で退院できると主治医も言っている... それにしても入院生活というものは、いったん痛みが取れてしまうと退屈なものだ。持ち込んだ本を読むのにも、もうとっくに飽きてしまった。ふだん活字中毒のようでも、本しか読むことがないとなると、なんとなく手を伸ばす気がなくなってしまうものらしい。そんなこんなで、一週間前にふと、会社の同僚のPがブログをやっていることを思い出し、自分もやってみようという気になった。ブログなら、今だけでなく、退院してからの退屈しのぎにもなる。しかしブログを始めるのはいいとして、何をネタにするか...私にとって、しばらく続けられそうなネタ、といえば、映画の紹介か本の紹介くらいだ。どっちにするか迷って、結局映画に決めた。こうしてしばらく前から、ベッドの上で、ブログの原稿を書き始めたのだった。 病院にPCを持ってきていたのが幸いした。さっそく、「第三の男」 (1949)だとか「ブレードランナー」 (1982)だとか、自分のもっとも好きな映画についてのレビューを書き始めたのだが、これがけっこう面白い。ふと気づけば、食事の時間以外、ひたすらキー・ボードを叩いているか、どんなことを書こうかと考えている...書くことがけっこう好きだったんだな、と自分でも意外なほどに楽しんでいる。しかし、昨日あたりから、行き詰ってしまったのだ。いくつかの映画について書き上げたあとに、「ダイ・ハード」のことを書こうとしてあれこれ考えているうち、なんだか、そんなのわざわざ書いても仕方ないような気がしてきたのだ。映画を紹介するサイトやブログなら、私が書くまでもなく、もっと上手に紹介したものがいくらでもある、ということが、今さらながらに気になってきたのだ...しかも「ダイ・ハード」ときたら、面白さが観たまんまのアクション映画だ。はっきり言って、この映画を紹介するのに、面白い、というひとこと以外に何が必要だというんだろう... そんなことを考えているうちに、映画紹介のブログをやる気が失せてきてしまった。そして、それならいっそ、オリジナルの小説でも書いてみるか、と思いついたのがゆうべのこと...はじめは推理小説でも、と思ったのだが、そんなもの、素人が簡単に書けるわけがない。そこで、そうだ、ブログを書こうとしている自分を小説にしてみたらどうだろう、と思いついた。そう、映画紹介のブログを始めたのはいいが、そのうち行き詰ってしまって悩みだす男の話...これなら、今考えていることをそのまま文章にすればいい。そんなことを考え始めたら気分が乗ってきて、昨夜はほとんど徹夜で小説の内容を妄想し続けてしまったのだった。 * * *プシュー!! 血圧計の萎む音がして、私はハッと我に返った。 「う~ん、また高くなってる」 血圧計を外しながら、看護師が困惑顔で言う。 「170の120...起きぬけなのにどうしてだろう」 私はあいまいに首を捻った。そう、ブログのことを考え始めるまでは平常だった血圧が、ブログを書き始めた数日前から、なぜか異常な数値を示すようになったのだ。術後の検査結果はどれも正常で、どうやらPCを使ったり考え事をしたりすると血圧が上がってしまうらしい、というのが、医者と看護師の意見だった。なので、PCを使うのはほどほどに、と釘をさされてしまっている。もし彼らの意見が正しいとすれば、一晩中、寝ないで考え事していれば、血圧が上がるのも当たり前だ。しかし、ブログくらいでこのぶんだと、仕事をしてるときというのは、もしかすると一日中、血圧が上がりっぱなしなのかもしれない... 「お昼にまた血圧測りますから、午前中はPC使わないようにしてくださいね」 私は肯いた。これじゃ暇つぶしどころか、身体によくない。しばらく、ブログのことを考えるのはやめて、今日は本でも読んで過ごそう...私はベッドを倒すと横になった。それにしても、一晩中寝てなかったというのに、まったく眠くない。あっという間に夜が明けた気がする。浦島太郎といっしょだ。時間が過ぎるのが早いということは、それだけ楽しいときを過ごしているということだ。よっぽどブログについて考えるのが、今の私には楽しいことなのだろう。 はて、どこまで考えたんだっけ...そうそう、会社の同僚と話した主人公が、小説はやめて、やっぱり映画紹介の続きを書くことにしたところまでだった。さて、そのあとの展開をどうするか... おっと、だめだ、また考え事をしている。こんなことをしてたら血圧が上がりっぱなしになってしまう。しばらくの間、忘れなければ... * * *ボチャン!! 亀が水に飛び込む音で、私はハッと我に返った。風のないおだやかな日だ。ぽかぽか陽気に誘われて、いつの間にかうとうとしてしまったらしい。なんだか入院していたときの夢を見ていたような気がする...しかし、退院してからもう2ヶ月か...月日が経つのは早いものだ。秋が終わって、あっという間に冬だ。結局映画紹介ネタで始めたブログも、なんだかんだで30回も続いている。私の友人のPは、3回書いて止めてしまったそうだから、それに比べれば大したものだ。 急に風が吹いて、私はぶるっと身を震わせた。いかん、こんなところでうたた寝したものだから、すっかり身体が冷えてしまった。風邪でもひいてしまったらことだ。もうしばらく、病院やクスリはこりごりだ。私は腰を上げると、そそくさと家路についた。 しかし、それにしても「ダイ・ハード」の記事をどうするか、だ。もう5日もブログを更新していない。イラストもまだ描いてないし、この調子じゃまだしばらくかかりそうだ。Think!, Goddamn, think!! (考えろ、くそ、考えるんだ!) 「ダイ・ハード」で、ブルース・ウィリス演じるマクレーン刑事が、絶体絶命の苦境に立たされるたびにつぶやくセリフだ。そう、彼のように、私も何か考えなくては... これまでに書いてきた映画のことを考えれば、「ダイ・ハード」についてだって書くことはいっぱいある。外界から遮断された高層ビルという舞台設定の秀逸さについて書いたっていいし、そうだ、続くダイ・ハード・シリーズとこの1作目の内容が、いかに本質的に違うものかについて書いたっていい。そう、これまで取り上げた映画と同じように書けばいいじゃないか... * * *ガシャン!! ガラスの砕ける音がして、私はハッと我に返った。ウェイトレスがまたコップを床に落としたものらしい。ずいぶんとそそっかしいウェイトレスだ。 Pを前にして、どうやらひとり、物思いに沈んでしまっていたらしい...ずいぶん深刻そうな顔をしていたのだろう。私を見て、Pは哀れむような口調で言った。 「なんだか、ずいぶん考え込んでるみたいだけどさ、そんな書きづらいなら、いっそ、『ダイ・ハード』の紹介はすっ飛ばしたら?」 私は答えずに、手の中のコーヒー・カップを口に運んだ。それができるなら、こんなに考え込みはしない...コーヒーは、すっかり冷めてしまっていた。しかし... 突然、話題を変えるように、Pが言った。 「そういえば、腰の手術、いつの予定だっけ」 「再来週だよ」 上の空で答えながら、私はPの言ったことを考えていた...不思議だ。突然幸福を感じて力が湧いてきた。そうだ、Pの言うとおりかもしれない。別に、「ダイ・ハード」を紹介しなくちゃいけないわけでもなんでもないのだ。書きづらいものはすっ飛ばすのが自然なことだ...そうだ、そうしよう。「ダイ・ハード」はやめよう...ヘンな記事を載せてしまったら後の祭だ。そう思うと、嘘のように、肩が軽くなった気がする。いったい何を悩んでいたのだろう...たかがブログじゃないか。 「そろそろオフィスに戻ろう」 そう言って伝票を掴むと、私は痛む腰を庇いながら立ち上がった。 * * * と、ここまで書いた私は、ダメだダメだとつぶやき、Deleteキーを押し続け、すべての文字を削除した... * * * とまあ、"私だって「ダイ・ハード」について語りたかった"わけですが、「ダイ・ハード」のストレートな紹介をしてもなぁ...と、思ってしまったので(じゃあこれまでのほかの映画はどうなんだ、と言われると返答のしようもありませんが)、「8 1/2」 (1963)のようなメタ物語風にして遊んでみました。で、オチはやっぱりメタらしく、ループということで。 次回からまじめな映画紹介に戻りますので、どうかお許しのほど...ダイ・ハード (原題: Die Hard ) 製作国 : 米国 公開: 1988年 監督: ジョン・マクティアナン 製作総指揮: チャールズ・ゴードン 製作: ローレンス・ゴードン/ジョエル・シルバー 脚本: ジェブ・スチュアート/スティーヴン・E・デ・スーザ 原作: ロデリック・ソープ(「ダイ・ハード」 ) 出演: ブルース・ウィリス/アラン・リックマン/ボニー・ベデリア 音楽: マイケル・ケイメン 美術: ジャクソン・デ・ゴヴィア 撮影: ヤン・デ・ボン 編集: フランク・J・ユリオステ/ジョン・F・リンク
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管理人: mardigras
いろいろと検索しているうちに、このブログにたどり着き、話の面白さにのめり込んでしまい、楽しませていただきました。
おそらく同世代でしょうか。紹介されている作品群を見て「同じだな」などと感じてしまいました。高校の頃、初めてのビデオデッキでの録画が、NHKで放映された「アパートの鍵貸します」でした。これに感動してから映画にのめり込み早25年。幾多の作品を見ながら、私も同じく「ど真ん中」のようです。
ダイハードでは、どんな紹介がされているかと思いきや。。。
私が知人に紹介する時は、いつも、
「Think! Think!」ってとこがいいんだよっ!(消防車を呼ぶ前のところ)
なんて力説していました。
これだけで、マクレーンというヒーローの立ち位置を決定づけていますよね。
無敵のヒーローではなく、かといって普通の隣人が突然ヒーローになるわけでもなく、必死に考えてしぶとく立ち回る。まさにダイハードです。
脚本がまた、しぶとさをいい感じで演出してくれています。
これからも楽しみにしています。