
無事、メキシコの釣り旅行から帰ってまいりました。帰国したらすぐにでもブログの更新を、と思いつつ、あと片付けやらなんやかんやで毎日を過ごしているうちにどんどん時間が過ぎてしまい、ふと気づいてみれば、帰国してはや1週間以上。結局、約3週間ぶりのブログ再開となってしまいました。
で、さっそく映画紹介の続きを...と思っていたのですが、さて、いざ書こうとしてみると、久しぶりのせいか、釣りボケのせいか、いつも以上にコトバがつかえて出てこない感じ...というわけで今回は、指先のリハビリも兼ねて、旅で印象に残った出来事を、思いつくままに書き並べてみたいと思います。
サンセット大通りとマルホランド・ドライブ
まずは、ほんのわずかながらも映画に関係のあるネタから...といっても、ビリー・ワイルダーの「サンセット大通り」(1950)やデビッド・リンチの「マルホランド・ドライブ」(2001)そのものではなく、それぞれの作品タイトルの元となった、実際にロサンゼルスにある"道"のお話。
メキシコ入りの前日、フライトの都合でロサンゼルスに丸1日滞在したのですが、日本では手に入らない釣具を入手すべく、ロスから約100kmほどラスベガス方面に寄った町にある大きなタックル・ショップ(釣具屋)に、レンタカーを借りて出かけました。朝いちから行動していたのですが、日曜ということもあって、たいした渋滞もなく、夕方までかかるかなと思っていた買出しが、午前中で終了。そのままホテルに戻ってもよかったのですが、天気も上々、どこか映画になじみのある場所をドライブしよう、と思いついて、サンセット大通りとマルホランド・ドライブを走ってきたのでした。で、イラストはロスが舞台となっている映画、「さらば愛しき女よ」(1975)のシャーロット・ランプリングとロバート・ミッチャム。ロスが舞台の映画なんて腐るほどあるわけですが、フィリップ・マーロウがクルマでロスの街を走り回るのでこの作品を...な~んていうのは単なるこじつけで、たまたま最近観た映画、ということで。
さて、サンセット大通りについては、2ヶ月ほど前にブログに同名の映画の記事を書いたばかり。なので記憶も新しく、ダウンタウンあたりをぐるぐるさまよった末に、ようやく"Sunset Blvd."というロード・サインの掲げられた通りにたどり着いたときには(なにせレンタカーのオフィスでもらった大雑把な地図しかない)、おお、ここが!と感動もひとしお。サンセット・ストリップと呼ばれる、背の高いパーム・ツリーが両脇に立ち並ぶ繁華街をゆっくりと流し、右手の山の中腹に例のハリウッド・サインを眺めながら西向きにどんどん進んでいくと、あたりの風景はいつしか、映画に出てきたような、すこしくねった大邸宅の並ぶ閑静なたたずまいへと趣きを変えていきます。いかにも、引退した往年の大女優が住んでいそうな、古く寂れた屋敷もあったりして、いいぞ、いいぞ、と、運転しながら喜んでいたのですが、ふとロード・サインをみると、そのあたりの地名は"Beverly Hills"。まったく知らなかったのですが、要するに、ビバリー・ヒルズの目抜き通りが、サンセット大通りだったのですね...
さらに高級住宅地の"Bel Air"を通り抜け、UCLAの正門前を通過すると、道はやがてサンセット大通りの終点、ロスの街を南北に縦断するインター・ステート405との合流地点にたどり着きます。ここで進路を北に取り、今度はマルホランド・ドライブへ、なのですが、せっかくだからゲッティ・センター(美術館)に寄って行こうか、とフリー・ウェイを降りたところ、休日のせいか美術館の入り口には長蛇のクルマの列...数年前に一度訪れたことがあるので、今回はパス、ということにして、405号線と平行して走る道を北上したのですが、おかしい、マルホランド・ドライブへの入り口が見つかりません...あれ、通り過ぎたかな?と思ったのは、もうずいぶん走ったあと。まともな地図がないかなしさで、100%通り過ぎた確信もないままにUターン。目を皿のようにして、マルホランド・ドライブへの入り口を探したのですが、どうしても見つからず、いつのまにかまたゲッティ・センターの近くまで戻ってしまったのでした。くじけそうになりつつも、もう一度だけ、と再Uターン。きょろきょろとあたりを見回しながらゆっくり走っていくと、やがて前方頭上に交差する一本の道が...ああ、あれか!と進入路を探すと、405号線をまたいだところに側道を発見し、ようやく、マルホランド・ドライブに合流することができたのでした。
とりあえず西向きに進路をとり、予想以上に細くさびしいくねくねとした山道を登っていきます。おお、これがマルホランド・ドライブ!とまたしてもひとりで喜びに浸りつつ、適当なところでクルマを止め、ロスの街を見下ろせば、気分はもうヒエロニムス・ボッシュ(マルホランド・ドライブ沿いの家に住んでいるという設定の、マイクル・コナリーのハードボイルド小説シリーズの主人公)。しばし休憩ののち、再びクルマを発進させてしばらく行くと、通行止めの標識で道がふさがれているではありませんか!地図によれば、そのまま山をぐるっと越えて、海沿いのパシフィック・コースト・ハイウェイに抜けられるはずなのですが...仕方ないので、そこでUターン。今度はハリウッドの街を一望のもとに眺め下ろしながら、これこそまさに、ボッシュがハリウッド署と自宅の往復で毎日通っていた道...な~んてことに思いを馳せつつ、終点のサンセット大通りとの合流地点へ。マルホランド・ドライブは、光に溢れたロスの街を取り囲むモノクロの縁取りのような、おもむきのある静かな山道でした。今回ドライブしたのはまだ日のあるうちでしたが、そのうち機会があれば、夜にも訪れてみたいものです(より、リンチの映画の雰囲気を味わえるはず)。
メキシコのバスの素敵な商売
翌日の早朝、ロスからメキシコ・シティに移動。最終目的地までは、メキシコ・シティからさらに飛行機を乗り継がなくてはなりません。乗換え待ちで半日ほど時間が空いていたので、ダウン・タウンの博物館にでも行こうかな、と考えていたのですが、なんと月曜日は休館ということが発覚。ほか、美術館などの公共施設はみな月曜が休日なのでした(無計画のしわ寄せがこういうところに出る)。というわけで、時間的にぎりぎりながら、ティオティワカンのピラミッドを訪れることに。メキシコはこれで4回目ながら、観光、というか、まともに街らしい街を見るのさえも今回がはじめてです。空港からタクシーでバス・ターミナルへ行き、そこからピラミッドを通る路線バスに乗りこんだのですが、目に入る人や原色の目立つ街並みの風景がいちいち楽しい。
メキシコ・シティの交通渋滞は噂どおり相当なもので、バスはなかなか前に進まず、時間を気にしてやきもきしていたのですが、驚いたのは、渋滞の立ち往生を利用して、入れ替わり立ち代り、いろんな商売人がバスに乗り込んできたこと。水売りにコーラ売り、スナック売りになぜかボール・ペン売り。外を見ると、バスに乗り込んでくるだけでなく、渋滞で動かない車列の間を縫うようにして、商売に精を出しています。そしてもっとも驚いたのが、ギターを抱えた二人組みが途中で乗り込んできて、おもむろにポロロンとやると、いきなり情熱的に歌いだしたこと。なんとなんと、流しのギター弾き・オン・ザ・バス!!彼らは、続けて3曲ほど気持ちよさそうに歌ったかと思うと、乗客にチップを要求して回り(払ったのはひとりだけ)、しばらくしたところで平然とバスを降りていったのでした。おそらく、今度は街に戻るバスをつかまえて乗り込むのでしょう。ところで、私の乗ったバスというのは、決して観光バスというわけではなく、途中でピラミッドを通るというだけの路線バス。というわけで私以外の乗客はみな地元民らしき人々。なのでギターの流しも決して観光客向けというわけではないのですね。限りなく押し売りに近い気もする商法ですが、乗客は誰も、決して迷惑そうな顔はしていない...ところ変われば品変わる、というか、ところ変われば商売も変わる、と感心してしまったのでした。
オン・ザ・ロード・オブ・メキシコ
私の目的地は、シナロア州という太平洋沿いにあります。空港にはロッジ(釣り宿)から迎えのクルマが来てくれていて、ドライバーは、イフライール君という、ほとんど英語の通じないメキシコでは珍しく英語がペラペラの青年。それもそのはず、彼は半年前まで、アメリカに3年近く住んでいたとのこと(不法滞在)。よりよい仕事と生活を求めてアメリカに行き、夢破れてメキシコに帰ってきたイフライール君。多くは語りませんでしたが、「なぜメキシコに帰ってきたの?」という私の問いに、「アメリカン・ドリームは幻想に過ぎない」と、ハイ・ビームのヘッド・ライトが照らし出す闇を見つめながら、独り言のようにそうつぶやいておりました。
今回の旅行に先立ち、ロスでクルマに乗るため、国際運転免許を取得しました。もともとそのつもりはなかったのでかまわないのですが、日本の国際運転免許というのは、メキシコでは使えないのですね。要するに、メキシコでクルマを運転しようと思ったら、メキシコの運転免許を取得しなくてはいけないのですが、はたして観光で訪れた外国人にも取得可能なものなのでしょうか...ちなみに住民は、有効期間2年の免許が、30ドル(USドル)程度で取得できるそうです。
驚いたのは、ロッジのスタッフのうちの何人かが、クルマを所有していて毎日運転しているにもかかわらず、免許を持っていないと言っていたこと。要するに無免許運転です。万が一、警察に捕まったらどうするのかと聞くと、彼らは口をそろえて、まったく問題ないと言います。警察官に謝りつつ、片手でそっと10ドル渡せばノー・プロブレム!なのだそうです。捕まる確率を考えると、免許を取るより無免許の方が経験的にお得らしい。なるほど...ちなみに警官に対するキャッシュはいついかなるときも有効で、罪の重さに応じた金額さえ渡せば、たいていのことは解決だそうです。日本の警察にお金を渡そうなどとしたら、おそらく一発で逮捕されるというと、みな、心底驚いていました。そんなメキシコでは、なんと飲酒運転も問題なし。
「アメリカはルールが多すぎる」とは、これもドライバーのイフライール君のセリフ(アメリカはとうぜんどこの州でも飲酒運転はアウトです)。そんな彼もとうぜん、運転しながらビールを飲んでいました。ただし、前方にほかのクルマが走っているときは、一般常識的なマナーとして遠慮するんだそうです。ところ変わればマナーも変わる...
私も助手席でビールを飲んでいたのですが、イフライール君は、飲み終わったら空き缶を窓の外に投げ捨てろ、と言います。空き缶を拾って歩くことをなりわいとしている人たちがいるので、アルミ缶は道路端に投げ捨てる、それが社会のため、とのこと。実はこの話、以前にも聞いたことがあったのですが、いったん身についたソーシャル・ノームの心理的なくびきというのはかなり強いもので、どうにも罪悪感が邪魔をしてほうり投げる気になれません。しかし、釣りが終わってロッジから空港への帰途、本当に空き缶を拾っている人を見かけ、ようやくその気に。窓を開けて飲み干したビール缶をおもいきり放り投げると、正直、ちょっとスカッとした気分になりました。
同宿の釣り人たち
今回出かけた湖は、実はこの釣行が初めて。過去3年、今回の場所よりも200マイルほど北にあるほかの湖に出かけていたのですが、思うところあって、行き先を変えてみたのでした。といっても、人里から少し離れた山の中の湖、というロケーションは一緒で、ロッジの雰囲気も似たようなもの。オーナー兼ロッジ・マネジャーはメキシコ人で、話をしているうち、実は、昨年まで出かけていた湖のロッジのマネジャーと数十年前に仕事仲間だったということがわかり、しばし、そのロッジ・マネジャーの話で盛り上がったのでした。
この時期、ロッジは比較的混んでいて、私が滞在していた1週間強のあいだ、常に10人程度の釣り人が滞在していました。たいていはアメリカ人なのですが、私と同じく、アメリカ以外から来ていた唯一のアングラー(釣り人)、それがポルトガルはリスボンからやってきていたアンドリュー君。ヨーロッパからわざわざメキシコに釣りしにやってくるとは、日本から遠征している自分が言うのもなんですが、ちょっと驚き。メキシコ人のロッジ・スタッフたちと苦もなくコミュニケーションをとっていると思ったら、ポルトガル語とスペイン語の話しことばはほとんど同じで、そのまま通じるんだそうです。アングラーとしてとてもまじめな男で、一週間のあいだ、広い湖の上で何度か彼のボートと出くわしましたが、ビールばかり飲んでいる私を尻目に、つねにロッドを振り続けていて、ちゃんと私よりも大きいサカナを釣り上げていました(そして後日、わざわざその大きなサカナを釣り上げた自分の写真をeメールで送ってきてくれた...)。
人の入れ替わりはあるものの、同宿の釣り人たちとは三食いつも一緒で、同好の士、ということもあり、たいてい、親しく会話を交わす仲になるものです。以前、ロッジで一緒になった、カリフォルニアから来た釣り人たちと意気投合して、翌年、タイミングを合わせて一緒にメキシコで釣りをしたこともあります。今回の驚きは、ミシガンからきていた初老の男性二人、ジムとロジャー。いろいろと話しているうち、なんとこの二人、私の卒業した大学の大先輩だったことが発覚。イリノイ州にある州立大学なのですが、それにしてもなんたる偶然。しかも、ロジャーは私が住んでいた寮に住んでいたことがわかって、あとはもう、ひたすらローカルでピン・ポイントな話題で大盛り上がり。ジムいわく、「世界は狭い」。まったくもって同感なのでした。
テキサスはヒューストンから来ていたジョンとカルビン。食事中、TVのニュースに出てきたオバマ大統領を目にして、「オバマをどう思う?」と、聞いてきました。苦虫を噛み潰すような表情を見れば、彼らがオバマ大統領をどう思っているかは一目瞭然。食事の前に祈りを捧げる(「神様、今日は大きいサカナを釣らせてくれてありがとう」とか、そんなことですが)敬虔なクリスチャンの彼らは、いわゆる典型的な保守層のテキサス人。彼らにとって、民主党とオバマ大統領は許せない存在なのですね。イフライール君が、「アメリカにいる多くの同胞(不法滞在者を含む)にとって、オバマ大統領が誕生して本当によかった」、と喜んでいたのと実に対照的でした。誤解のないように書いておくと、ジョンもカルビンも、本当にいいヤツでした。
* * *
とまあ、旅のつれづれを思いつくままにつづってみました。映画にかこつけた話を並べたかったのですが、そううまくいくはずもなく...それでも、釣りの話はちゃんと自粛しております(笑)。
というわけで、無駄話も終了。次回より、これまでどおりの映画の紹介を続けてまいりたいと思います。
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管理人: mardigras

わたしは出不精ぎみなので、こういう話を聞くとワクワクします。
渋滞に乗じた商売ですかぁ。ドキュメンタリー番組なんかでも観たことがありますが、ボールペン売りとは・・・(笑)
流しのギター弾きも面白そうですね。
ここが俺たちのステージ!!みたいな図太さを感じます。
日本人には無理そう・・・というか、日本ではというべきなのかな?
こういう大らかなところは、日本人も見習うべきかもしれませんね~。