
ちょっと小休止、ということで、またまた映画と関係のない話題で恐縮なのですが、今回は"鳥"の話題です。ヒッチコックの「鳥」(1963)ではなく、そのあたりを飛んでいる本当の"鳥"、のお話であります。とはいえイラストは、"鳥"つながりということで、やっぱりヒッチコックの「鳥」。映画に描かれていた鳥たちは、ひたすら不気味で得体の知れない恐怖の対象だったわけですが、しかし今回は、そんな鳥が、いかに愛らしく、そして魅力的かということについて...
ビバ!野鳥
さて、先月メキシコに釣り旅行に出かけたばかりなのですが、実は先週末から3泊4日で沖縄に行ってきました。今回の旅行の目的は、"魚"ではなく"鳥"。そう、バード・ウォッチングです。私にとって、釣りはかなり本気印の趣味なのですが、バード・ウォッチングは、"なんちゃって"レベルというか、"ついで"の遊び。釣りや山登りや散歩に出かけたときに野鳥の姿が見えたり囀りが聴こえたりすると、ポケットに忍ばせた小型の双眼鏡をおもむろに取り出し、その愛らしい姿を眺めたり探したりするくらいの程度...だったのですが、このたびはじめて、探鳥自体を目的に旅行してきたのであります。
私が鳥を見はじめたのは、今から10年近く前のこと。当時勤めていた会社で、ある研修会の参加記念に双眼鏡をもらったのがきっかけ(どんな記念だ)。せっかくなので、釣行のお供として持ち歩きだしたのですが、そもそも最初は湖の遥か上にある山道から、木々の合間を透かして湖面に魚影を探すのに使っていました(そして魚を見つけると、そーっと崖を降りて釣る)。
ところがあるとき、ホームグラウンドの奥多摩湖でいつものように魚影を求めて湖を眺める私の目の前を、突然、真っ青な、小さな飛礫(つぶて)のような物体が横切ったのです。水面すれすれを糸を引くように飛ぶ飛翔するその小さなシルエットは、一直線に湖を渡っていってすぐに視界の外へ消えてしまったのですが、そのハッとするようなコバルトブルーの輝きに、思わずほーっと見とれてしまいました。それが何だったのかといえば、そう、空飛ぶ宝石こと、カワセミだったのですね。キレイな鳥だとは思っていましたが、いや~、あんなに美しく、そしてカッコいいものだとは...つい最近、野外で出会ったあるベテランのバード・ウォッチャーから、「探鳥はカワセミに始まりカワセミに終わる」なんてセリフを聞いたばかりなのですが(ちなみに釣りの世界には「フナに始まりフナに終わる」などという言い回しがある)、私もまったくその口。湖上を飛翔するカワセミを見て以来、野鳥にすっかり魅せられてしまい、山野に出かけるときにかかわらず、近所を散歩するときにも、積極的に鳥を捜し求めては、その可愛らしい姿をめでるようになった、というわけなのです。
鳥、といってもその存在をこれっぽっちも気にかけていなかった頃は、スズメとカラス、それにハトとツバメくらいしか目につかなかった(そして知らなかった)ものです。しかしその気になって観察すると、私の暮らしている東京郊外の街にもいろいろな小鳥がいるのですね。ヒヨドリやムクドリ、メジロにツグミにシジュウカラ。ときどき窓の外の木にやってくるオナガやコゲラにちょっと出歩くとあちこちで見かけるハクセキレイやキセキレイ、声はすれどもなかなか姿の見つからないウグイスやアオジ。近くの公園や川に足を運べば、マガモやカルガモやハジロがぷかぷかと池に浮かび、カワウやコサギが水辺で小魚を啄ばんでいます(そしてカワセミもいたりします)。
双眼鏡で観察すると、見慣れたつもりのスズメやカラス(同じようでも数種います)でさえも、そのしぐさや動作がけっこう面白く、まして見目のキレイな鳥ともなると、いくら見続けても見飽きないものです。特に小さな鳥が嘴をいっぱいに開き、喉を張って、そのサイズからは想像もできないくらいの大きな声で囀っているときの真剣な表情を双眼鏡越しにアップで見ていると、ちょっとオーバーですが、こんな小さな鳥も一生懸命に生きているんだなあ、などと感動的でさえあります。
ところで私の持っている図鑑によれば、これまで国内で550種以上の野鳥が観察されているそうです。そんな中で、これまでに私が確認できた種類は80種くらい。本格的なバード・ウォッチャーの人たちには嗤われてしまう数でしかありませんが、それでも自分としては、鳥を見始めて以来、ずいぶんと区別がつくようになったなあという感じです。見知らぬ鳥を見つけては図鑑と見比べ、これはXXXだ、XXX以外にありえない!などと同定できたときの喜びは、大物を釣り上げたときの興奮に近いものがあります。おそらく探鳥会に参加すれば、ベテランに同行したり珍しい鳥の現れる場所を教えてもらったりして、もっと簡単に、いろいろな鳥に出会えるのでしょうが(素人だと、声はすれども姿は見えず、で、小さな鳥はなかなか見つからないし、またその姿をちら見しても、いったいなんという鳥なのか、はっきりしないのですね)、これまでのところそこまで本格的にやる気はなく、また記録撮影も、やりだすとお金・時間ともに底なし沼っぽいので、とりあえず双眼鏡による観察だけで満足していました。
とまあ、私にとってバードウォッチングはあくまで"ついで"の遊びなのですが、同定済みの鳥の数が増えれば増えるほど、近場を歩いているだけでは目新しい鳥に出会えなくなってきてもいて、ここのところ、少し物足りなさを覚えていたことも事実。特定の地域のみに生息している鳥はむろん、通過するコースがおおよそ決まっている旅鳥は、渡りの季節に特定の場所を訪れないかぎり、まず、目にすることができないのですね。そんなわけでここ数年は、"ついで"からほんのちょっぴり踏み出して、探鳥自体を目的に、ときどき日帰りであちこちの探鳥地に出かけたりしていたのですが、やはり一歩踏み出せば、もう一歩踏み出したくなる、というわけで、このたびついに、思いきって訪れてしまいました、バード・ウォッチャー憧れの地(たぶん)、沖縄。
ヤンバルクイナの森
沖縄島を含む琉球諸島は、多くの旅鳥の中継地であり、またある種の鳥の越冬地ともなっていて、一度にたくさんの種類の野鳥が見られる場所です。さらにはここだけにしかいないという、数多くの固有種が生息していたりもします。固有種の中でも有名なのが、沖縄島北部の山原(やんばる)地域にしかいない、ヤンバルクイナというクイナ科の鳥。日本で最後に発見された鳥で、それはほんのついこの前(でもないか?)、1981年のこと。当時中学生だったのですが、この狭い日本でいまさら新種の鳥が発見されたというニュースにとても驚き、大きなロマンを感じたことを、いまでもよく覚えています。
今回の旅行では、もし見られるものなら、この「いつかはヤンバルクイナ」ともいうべき憧れの鳥を見てみたい、という野心を抱いていて、飛行機を降りると、那覇も名護も素通りし、やんばるの森と呼ばれる広大な森の残る、本島北部の国頭村(くにがみそん)を訪れたました。そして3日間、野鳥の姿を求め、朝から夕方まであちこちをうろつき回っていたのですが(そしてときどき釣り)、結論から言いますと、無事、ヤンバルクイナを見ることができました。夜が明けて間もない早暁、やんばるの森の道をゆっくりと走らせていたクルマの窓から望む彼方の草原の一角に、思ったよりも小さな黒いシルエットが三つ。肉眼ではカラスかと思いきや、双眼鏡に眼を当てると、まごうかたなきヤンバルクイナが、赤い嘴で草薮の地面をほじくりかえしながら、一心不乱に餌をあさっていたのでした。興奮を抑えつつ、そーっとクルマを降り、そーっと観察すること約10分。草の陰に見え隠れしていた鳥たちは、やがて一羽ずつ、ゆっくりと、ゆっくりと、森の中へと姿を消していきました。
推定生息個体数1,000羽前後。この世にたったそれだけ。翼が退化し飛ぶことのできないヤンバルクイナは、野生化したネコやマングース(ハブ対策として人為的に移殖された)に捕食され、その数を急激に減らすとともに、林道開発や森林伐採の影響もあって、その生息域も年々狭まりつつあるのだそうです。人間という存在も環境の一部だとすれば、環境に適応できない生き物が滅びるのは仕方ないこと―なんて割り切ってしまうには、双眼鏡の先の小さなシルエットはあまりにか弱く不器用そうで、またユーモラスでもあるがゆえにいっそう哀れさを感じさせるものでした。そう遠くない将来、もしかするとこの地球上から一羽もいなくなってしまう日がくるかもしれないなどと思うと、見ることのできた感激の一方で、その存在のはかなさに予想外に心が激しく揺さぶられてしまったのでした。ヒトという種がヒトの都合を第一優先にあれこれ開発するのはある意味自然なことともいえるし、そもそも開発された道がなければ、今回、その姿を見ることもできなかったわけで、まあ何を言っても手前勝手な感傷に過ぎないのですが、それでも、もし将来、こんな森と鳥がなくなってしまうようなことがあるとすれば、たぶんそれは人という生き物にとっても確実にろくでもない未来ではないかと思うのであります。
* * *
というわけで、ヤンバルクイナを含め、今回の探鳥旅行で新しく見ることのできた鳥は13種ほど。そのうち、特にこのあたり(琉球諸島)でしか見られない鳥は、ほかにアカヒゲとシロガシラくらいで、残念ながら、ノグチゲラという、これもやはりやんばるの森にしかいないキツツキには出遭うことができませんでした(高速で木を突くドラミング音が聴こえてきたので、さんざん粘って探したのですが、姿を捉えることはできず)。あとはここに記うほどのこともないありふれた、しかし私にとってはこれまでに見たことのなかった鳥がほとんどだったのですが、それにしてもバード・ウォッチング、やればやるほど面白くなってくる...あんまり夢中にならないように気をつけないと、ただでさえ釣りと山登りで忙しいのに、と自戒する今日この頃なのであります。
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詳しくないので、、、すみません、、、
めじろは東京でよく見かけますね。♪
素敵な旅のお話今回もありがとう。♪♪
イラストもgooです♪♪
(白状 します。ヒッチコックの 「鳥」 実はみていないんです、、なんか怖くって)