スモーク

「スモーク」のイラスト(ハーヴェイ・カイテル)

週末に観る予定が遅れてしまい、ようやく月曜の午前中に鑑賞。でもってさっそく感想を、と思っていたら突然吐き気が襲ってきて、お腹の調子がおかしくなってしまいました。そのうち寒気もしてきてガクガクブルブル、あっという間に熱が出て、以来、三日三晩、ほとんど何も食べられず、気息奄々、寝込んでしまう羽目に。昨日になってようやく病院へ行き、薬をもらって帰ってきたのですが、そのお陰かどうか、ようやく症状が治まってきて、豆腐程度ならなんとか消化できるまでに快復しました。というわけでいまさらですが、「スモーク」(1995)の感想を。

...いやしかし、春からひどい目にあいました。

*        *        *

ここ数日間の新聞をまとめ読みしていたら、日本人男性の喫煙率は38%、なんていう統計データが載っていました。調査主体がJTなので多少高めの数字なのかもしれませんが、それにしてもこのご時勢に、まだまだいるもんだなあ、とちょっと驚いた次第。で、かくいう私もそんなスモーカーのひとり。

この映画、さすが「スモーク」というタイトルにいつわりなし、喫煙場面をここまで意識的に描いた作品を初めて観た気がします。出てくる人出てくる人、お、お前もか、という感じで誰もが紙巻やら葉巻やら、それぞれ好みのものを、実にうまそうにすぱすぱ吹かしています。というわけで喫煙率ほぼ100%、この映画のスモーカーたちには、煙草を吸うことに対する罪悪感だとか肩身の狭さが微塵も感じられなくて(しかも健康がどうのこうの、などと良識的なことを口にするに人物は一切出てこなくて)、煙草ってかつてはこういうモンだったよなあ、と、ほんの15年前のスモーカーたちに、ちょっとノスタルジックなうらやましさを感じてしまいました。ま、それだけ煙草を吸うということに、一抹のやましさを覚えずにはいられない今日この頃なのですが、なんというか、煙草の危険をここまで四方八方から刷り込まれると、たとえ見渡す限りひとっ子一人いない北海道の大草原のような場所であっても、一服つけるごとに、オレって愚か者だぜ~と自ら再確認してしるような気分になって、本来の味わいが数割がた損ねられてしまっているような気がするのですね。

とまあ、そんなことはどうでもいいのですが、この映画、ブルックリンの煙草屋で交差する幾人かの人生のちょっとした出来事を淡々と描いていて、そのストーリー展開には、驚くほどにひねりもオチもありません。アクがないというか、ケレンがないというか、まさに煙のようにスーッと手ごたえがないのですが、しかしそれでいて、観終わった後に、何かが残る感じがあって、本でいうと、ボブ・グリーンのコラム集の読後感に似ている感じ。どこの街角にでもありそうな、しかし優れた観察者でなければ見過ごしてしまうような、なにげなくてさりげないエピソードを気のきいたアングルで読ませてもらっているような、そんな、ちょっと得した気分にさせられる味わいがありました。まあそもそも、最後の「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」自体、作家が街で拾ったちょっといい話を新聞に載せるという、そんな体裁になっていましたね。

しかしそれにしても、最後のクリスマスストーリーで、オーギーのしゃべり続ける映像が延々流れ、とうとう最後まで語りきってしまうという構成には、意表を突かれました。そしてそれが真実なのか作り話なのか、煙に巻くようなオーギーのいたずらっぽい笑顔に続き、その語りをそっくりそのまま再現したような、トム・ウェイツの歌声の流れるモノクロ映像。おばあさんの笑顔が素敵で、洒落ていて、温かい余韻の残るエンディングでした。

*        *        *

もう少し書きたいことがあった気もするのですが、臥せってうんうんうなっているうちに、どうも消化されずにアタマからすっかり排出されてしまった感じです。そんなわけで今回の感想は、このへんで...

最後に、素晴らしい映画の存在を教えてくださったRELAX TIMEのユウ太さん、どうもありがとうございました!


スモーク(原題: Smoke
製作国 : 米国、日本、ドイツ
公開: 1995年
監督: ウェイン・ワン
製作総指揮: ボブ・ワインスタイン/ハーヴェイ・ワインスタイン/井関惺
製作: ピーター・ニューマン/グレッグ・ジョンソン/堀越謙三/黒岩久美
脚本: ポール・オースター
原作: ポール・オースター(「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」
出演: ハーヴェイ・カイテル/ウィリアム・ハート/ストッカード・チャニング
音楽: レイチェル・ポートマン
撮影: アダム・ホレンダー
美術: カリナ・イワノフ
編集: メイジー・ホイ


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コメント

[C552] お身体は大丈夫ですか?

Mardigrasさん(^^)こんばんは!
いつもありがとうございます。

今回は本当にお世話になりまして、ありがとうございました。
しかし、そんな大変な状態でいらした事、お身体は大丈夫ですか?
お仕事やプライベ-ト、そして映画を楽しむのは、やはり健康でいらっしゃる事が何より大事ですからご自愛くださいませ。

Mardigrasさんがそんな苦しい時に、イラストもまたまた本当に素晴らしく、しっかり鑑賞してらした事に感謝致します。(^^)

この映画は本当にタイトルの通り、掴み所がない煙のような話しでしたが、最後にはなんとも言えない余韻を与えてくれる映画だと思います。
こうした感じの映画は他に類を見ないと思いますので選定してみましたが、皆さんご堪能して頂けたようで自分も今、ホッとしております。(^^)

これからもこの素敵なイベントをご一緒に楽しんで行きたいと思いますのでこれからもどうぞ、宜しくお願い致しますね!

本当にありがとうございます。(^^)

[C553] こんばんは☆

お腹風邪、大変でしたね!
レビューはもっと後でも良かったのに・・・大丈夫ですか???

>どこの街角にでもありそうな、しかし優れた観察者でなければ見過ごしてしまうような、なにげなくてさりげないエピソードを気のきいたアングルで読ませてもらっているような、そんなちょっと得した気分にさせられるような味わいがありました

この映画はひと言で言うとこんな感じなのでしょうね?
私もいつか再見したいと思っています。

では、どうぞ完治までお大事に・・・ノロ・ウィルスかロタ・ウィルスだと思いますが、症状が良くなったからと言って、無理は絶対にダメですよ!おとなしく、じっとしてお過ごしくださいね!パソコンもほどほどに~!

追伸:イラスト、すっごく素敵です。本人よりイイ男になっていますネ♪
  • 2010-04-02 20:30
  • miri
  • URL
  • 編集

[C554] >ユウ太さん

こんばんわ、感想アップが遅くなってしまってすみませんでした!
ご心配いただきありがとうございます。今日になってかなり快復してきたので、もうだいじょうぶだと思います。季節の変わり目っていうのは、やっぱり疲れやすかったり体調を崩しやすかったりするものですね(汗)。

おっしゃるとおり、あまり味わったことのない空気を感じる映画でした。この監督の作品、ほかに観たことないんですが、機会があったら手にとってみようと思います。

これから皆さんの感想も読ませていただこうと思っています。
こちらこそ今回はいい映画を教えていただきありがとうございました!

[C555] >miriさん

ご心配とお心遣いありがとうございます。昨日まではかなりぐったりでしたが、今日はかなりマシになりました。

病院でノロウィルスですかね?と聞いたら原因ははっきりわからないと言われ、診察はあっという間に終わってしまったんですが...今冬はこの手の症状が流行っていたそうで、お医者さんも、またか、という感じでした。

ブルックリンというとちょっとアブナイところ、というイメージがあったんですが、まあやっぱりあぶないんですが、それでもフツウの人々がフツウに生活してて、ブルックリンってこんなところなんだな~という感じの伝わってくる映画でした。

ちなみにイラストは、ちょっと煙っぽいシルエットで描いてみました(笑)。

[C556]

mardigras さん、こんばんは。

この映画、blue in the face ですよね?
そうならば、ですが、演劇 Live で演っていそう、
というのか、もうすでに 演っているかしら。
私は、大好き、です。いつ観ても、めっちゃ笑っちゃいます。
たぶん、Brooklyn ですよね、、、。

では、また、です。

[C557] >kaoruさん

こんにちは~!
実は昨日、この映画の原作を読んでみたくなってアマゾンで注文したんですが(既に絶版なので古本)、その本のタイトルが「スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス」。というわけでこの映画はblue in the faceではなくて、その前編にあたる作品なんだそうです。

blue in the faceは、この作品よりもコメディ色が強くなってるみたいですね~。う~ん、めっちゃ笑えるなんておっしゃられると、もうどうしても観てみたいんですけど、DVDになってないようなので観ることができません...テレビに期待、です。舞台演劇になっているかどうかは??です...

[C558] おなか大丈夫ですか?

今年の春は気温の変化が激しくて体がついていきませんよね。ぶり返さないよう、くれぐれもお気をつけください。

>一服つけるごとに、オレって愚か者だぜ~と自らに再確認してしるような気分になって、本来の味わいが数割がた損ねられてしまっているような気がするのですね。

この映画の登場人物はこんな時代がくるなんて微塵も思っていなさそうですよね。気持ちよくすぱすぱやってるのをみると、タバコ嫌いのわたしでさえ”そんなにいいものなんだろうか”と少し思ってしまいます。
最後の構成はわたしもビックリでした。途中で回想シーンになるとばかり思っていたら語りきっちゃって。そうくるかと思ってたら、今度はモノクロ映像ですもんね。印象にのこったし、音楽も良かった・・・。
またいつか観たいなぁと思える作品でした。

それにしても、病み上がりに描いたとは思えない、素敵なイラスト!タバコは描かれてないのに、煙がたゆたう感じがでてていいですね。
  • 2010-04-03 12:15
  • 宵乃
  • URL
  • 編集

[C559] >宵乃さん

ありがとうございます、
とりあえず病臥の状態からは、完全に脱することができました。
しかしホント、今年の寒暖の激しさはちょっと異常でしたね~。

アメリカもいまじゃ公共スペースで煙草吸えるところなんてまずないですからね~。オーギーのような煙草屋は、いまどうなってるんでしょう。。。空港からも喫煙スペースが消え始め、レストランからも喫煙席が消えて全面禁煙になっていったのが、ちょうどこの映画の頃だったように思います。そのうちホテルもスモーキング・ルームがなくなっちゃったりするんだろうな~と思います(泣)。

スモーカーにとっては煙草自体もうまいんですが、映画みたいに煙草呑み同士の会話もけっこう楽しいんですよ。会社で働いていると、上下や部署の別なしに、必ずスモーカー(愚か者)同士のネットワークができあがります(しょっちゅう喫煙室で顔をあわせるので。笑)。でもやっぱり吸わないに越したことはないのです!

イラストですが、、、ありがとうございます。でもお腹に力が入らずにマウスを操る手が震えていたせいか、いつもとちょっと違う感じになった気がします。実は煙草を描き加えてもみたんですが、ぜんぜんうまく収まらないので消したんですよ~(笑)。

[C561] もう回復

されましたでしょうか、大変でしたね、やはりとんでもない風邪だったのでしょうね・・・、
やはり万病の元といわれてますのでお気をつけ下さい!

この『スモーク』も好きな映画ですが、他に喫煙者お薦めの映画は『Thanks for Smoking』、『Coffee and Cigarettes』で、禁煙?ってなに、楽しんでなんぼのものでしょう・・・って感じの面白い映画です。

  • 2010-04-10 01:23
  • ヘルブラウ
  • URL
  • 編集

[C562] >ヘルブラウさん

ありがとうございます、
おかげさまでもうすっかり元気になりました。
治ってわかる健康のありがたさ、やっぱり健康がいちばんですね~(といいながら一服)。

「Thank you for Smoking」と「Coffee & Cigarettes」、どちらも観たことないんですが、タイトルからしていいですね。「Coffee & Cigarettes」はジム・ジャームッシュですか...激しく興味をそそられてしまいましたよ~!

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